マイクロ波急速加熱装置の高度化: マイクロ波を効率的に吸収して発熱する炭素粉末の粒径、粉末の充填率などの最適化について平成28年度に調査し、そこで得られた結果をもとに、平成29年度に石英管内に炭素粉末とアルゴンガスを封入した発熱構造体(カーボン・ヒーティング・チューブ)を試作した。さらに、マイクロ波の多重反射を用いて、より効率的にカーボン・ヒーティング・チューブにマイクロ波が吸収されるように加熱炉の筐体形状を調整した。開発したカーボン・ヒーティング・チューブ加熱炉は、出力200Wのマイクロ波照射時に最高温度1300℃に達した。最終年度の平成30年度には、加熱炉に放射温度計の計測値をもとにマイクロ波の出力を制御する温度調整機構を組み込み、設定温度1100℃時に±10℃以内の温度制御を達成した。 カーボン・ヒーティング・チューブを発熱体として用いることにより、炭素粉末により被加熱体を覆って加熱する従来手法で懸念された加熱時の炭素粉末による試料への還元効果および炭素不純物の混入を完全に遮断することが可能となり、本手法の適用領域を大幅に拡大することに成功した。カーボン・ヒーティング・チューブには電極がなく、配線を必要としないため、耐久性に優れており、且つ、配線を通じた熱の逃げが発生しないため、これまでにない省エネルギー・タイプの発熱源として活用が期待できる。 シリコン薄膜の結晶化: カーボン・ヒーティング・チューブ加熱炉を用いて、石英ガラス基板上に形成した膜厚50nmのアモルファスシリコン薄膜の加熱結晶化を達成した。分光反射率スペクトルとラマン散乱スペクトルの多点測定により得られたシリコン薄膜の結晶化率は4インチ基板全面に渡って0.95と見積もられた。この値は実用化されているレーザ結晶化膜の結晶化率0.9を上回り、高品質のシリコン結晶化膜作成手法として本加熱手法の可能性を示した。
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