研究課題/領域番号 |
16K06257
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研究機関 | 北陸先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
堀田 將 北陸先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 教授 (60199552)
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研究分担者 |
能木 雅也 大阪大学, 産業科学研究所, 准教授 (80379031)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | セルロースナノペーパー / 結晶化シリコン膜 / 薄膜トランジスタ / YSZ薄膜低温作製 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、セルロースナノペーパ―(CNP)上に、緩衝層であり後に作製する結晶化Si薄膜の成長に有効なYSZ層を形成後、その上にパルスレーザーアニール(PLA)の2段階照射法により結晶化Si薄膜を形成し、そこに200℃以下で薄膜トランジスタ(TFT)を作製して、その環境用センサデバイスなどへの適用を示すことである。 初年度では、この目的に沿い、まずは、CNP上に結晶誘発層であるYSZ膜を形成することを検討した。結晶化誘発層とは、その上に堆積する膜の結晶化を誘発するものであることから、結晶化したYSZ膜の形成が必須である。そのため、室温堆積でも膜の結晶化が可能なスパッタ法を用いた。しかし、スパッタ法は、基板の加熱なしでも堆積膜の結晶化が可能な反面、プラズマを用いるため、そのダメージによりCNPは炭化し、劣化する。そこで、YSZ膜を堆積してもCNPが劣化しないように、CNP直上に緩衝層の形成が必要となる。緩衝層として、耐熱性があり電気絶縁性も高いZEOCOAT®を採用した。 その結果、基板ホルダーの改良やYSZ膜堆積条件の工夫により、ZEOCOAT®/CNP/ガラス基板構造上試料にYSZ膜を、堆積パワー40 W、10分で、ZEOCOAT®/CNPの熱的劣化なしで堆積することができた。このことは、YSZ膜堆積前後で試料の反射率、透過率の測定結果から示した。また、この時のYSZ膜の膜厚が約60nmとやや薄いが、X線回折法により結晶化が確認できる堆積条件である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究分担者である阪大の能木が、ガラス基板上に厚さ0.3μmのCNPを作製し、堀田がそれを受け、研究を進めた。まず、CNPの熱的ダメージを回避するために緩衝層のZEOCOAT®膜を、CNP上に溶液塗布法により厚さ約0.5μmで形成した。 次に、スパッタ法によりZEOCOAT®/CNP上にYSZ膜の堆積を行った。高結晶化膜を得るには高い投入電力が必要であるが、パワー100W、10分堆積ではZEOCOAT®膜、CNPともに明らかに変色し、劣化した。逆に、膜が劣化しない20W近くでは、結晶化が起きなかった。100Wの場合は、スパッタ時の基板表面での激しい発熱とその熱の基板ホルダーへの不十分な拡散のために、膜が熱的に劣化したためである。そこで、ガラス基板裏面と金属ホルダー表面との熱抵抗を低減し、熱拡散が大きいホルダー構造を検討した。その結果、40W、10分程度まで劣化を改善することができた。 また、低堆積パワーでも結晶化が促進する様に、YSZ堆積時に以下の工夫を行った。低パワーで結晶化が起きない理由として、堆積粒子が持つ低い飛来エネルギーのためと考えられる。そこで、酸化物であるYSZ膜堆積前に、その母体材料であるZr,Yで厚さ1nm以下の極薄金属膜を堆積し、その後、酸素を混入した反応性スパッタ法により、金属膜を酸化すると共に酸化物YSZ薄膜の形成を試みた。金属膜の酸化による強制的な金属粒子の移動が、結晶化の促進に繋がることを期待した。その結果、YSZ膜の結晶化が起き、本手法により促進されていることがXRD回折法により明らかとなった。 上記YSZ膜の膜質では、必要する結晶化Si膜が得るほどには十分ではない。しかし、今後の研究を大きく発展させる結果であることから、当該年度の研究は、概ね順調に進んでいると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
1)前年度では、ZEOCOAT®/CNPが劣化しない結晶化誘発層YSZ膜の堆積条件を検討し、結晶化に必要となる堆積パワーの向上と、新たなYSZ膜堆積プロセスを見出した。しかし、現状のYSZ膜の結晶性では不十分であり、さらなる向上が必要となる。そのために、YSZ膜堆積ホルダーの熱拡散を促すさらなる改良と、先に述べた結晶化促進の極薄金属層堆積条件の最適化を行う。 2)適切な結晶化YSZ膜が得られた後、電子ビーム蒸着法により非晶質Si(a-Si)膜を100℃前後で形成する。質の高い結晶化Si膜を得るには、その前駆膜となるa-Si膜の密度が高い必要がある。高密度を得るためには、a-Si膜堆積時の基板温度を高くする必要があるが、150°以上にすれば、CNPは劣化する。そのため、安全を見て100℃とした。 3)CNP膜が劣化しない条件で堆積したa-Si膜は、パルスレーザーアニール(PLA)法により結晶化する。結晶化膜として、粒径が100nm以上で基板面内±20 %以内で均一であり、ホール効果移動度として、2cm2/Vs以上を目指す。この移動度の値は、実際の薄膜トランジスタの電界効果移動として約100cm2/Vs以上になる値である。 4)おそらく平成30年度とはなるが、良好な結晶化Si膜が得られれば、ゲート酸化膜に本研究室で開発したシリコーンオイルとオゾンとによるSiO2膜を用いて、200℃以下でTFTの作製を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験補助の必要性が計画よりは低く、それによる謝金が無かったため。また、物品に関しては、出来るだけ節約して無駄を省き、次年度の予備予算として残したため。
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次年度使用額の使用計画 |
今後の研究の進展を図るために、学生や研究生に実験補助を多く依頼し、それに対する謝金に使用する。また、思わぬトラブルなどにより研究遂行上必要な装置が故障した場合、その修理費などに充てる。
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