研究課題/領域番号 |
16K06259
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
井上 翼 静岡大学, 工学部, 教授 (90324334)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | カーボンナノチューブ / 複合材料 / 電気伝導率 / 熱伝導率 |
研究実績の概要 |
高配向カーボンナノチューブ(CNT)と樹脂の複合材料による高電気伝導・高熱伝導プラスティック材料開発の基盤技術を確立することを目的とし、研究を進めた。これまで申請者が開発した紡績CNTによる一方向配向CNTシートを基材とし、樹脂と複合化させて電気伝導特性および熱伝導特性がともに優れるCNT複合材料を新規に創出するための研究を実施した。まず、申請者が開発してきた塩化鉄を触媒とする塩化物介在CVD法により、CNTを一方向に配列したCNTウェブを引き出せる紡績性CNTアレイを作製した。次にCNTアレイから引き出したCNTウェブを積層し、一方向配向CNTシートを作製した。さらに、CNTシートと熱可塑性樹脂シートをホットプレスにより複合化した。ここで、ウェブ積層数を変化させてCNTシート厚を制御し、複合化後のCNT濃度を制御した。作製したCNT複合材料の複合化状況を調査するため、断面を観察した。CNT濃度によらず、均質な複合化が得られていることがわかった。そこで、次にCNT複合材料の直流電気伝導率を評価した。CNT濃度が増加するとともに、電気伝導率も大きくなり、従来のCNT複合材料と比較して飛躍的に高い特性が得られることが分かった。これは、樹脂中においてもCNT同士の連結が保存されており、CNT表面を介したキャリア輸送が支配的であるためと考えられる。従来の粉末状CNTによる複合材料では、均質な高濃度分散以外にも配向性やCNT結合性が乏しく、高伝導特性は得られていない。本研究で配列CNTシートプリフォームを用いている点が本研究の強みである。さらに薄膜複合材料の面内熱伝導率の評価準備を行った。熱伝導率評価には、試料の重量密度、比熱及び熱拡散係数を測定し乗することで熱伝導率を見積もった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度までにCNTを高濃度に含むCNTエポキシ樹脂複合材料において、ボイドを含まずCNTが均質に分散していることがわかってきた。そこで、CNT濃度を最大で50%程度まで高めた試料を作製し、直流電気伝導特性を調べた。電気伝導率においては、CNT配向方向に対して測定したところ、CNT濃度5%以下程度の領域で濃度増加とともに導電率が著しく増加した。その後、50%まで濃度が増加するとともに導電率はさらに単調増加し、最大で700S/cmに達した。CNT樹脂複合材料としてはこれまで報告されている結果と比較して極めて高い導電性である。さらに、CNTエポキシ樹脂複合材料の面内熱伝導率評価を進めた。そのために、複合材料フィルム面内の比熱測定と熱拡散率測定および重量密度を測定した後、熱伝導率を算出した。電気伝導率の場合とは異なり、CNT濃度の増加とともに線形的に熱伝導率は増加した。最大で80W/mKを超える極めて高い熱伝導率が得られた。CNTの高い濃度と配向性によるものである。
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今後の研究の推進方策 |
これまでは熱硬化性樹脂とCNTの複合材料を作製した。今後は熱可塑性樹脂であるポリアミド樹脂を用いた複合材料に関する研究を実施する。エポキシの場合と比較してCNTフィルム中への含浸性において高分散性を得るには難易度の高い材料であると予想される。種々の方法と条件を探索しエポキシ樹脂と同様な高配向かつ高濃度分散を得ることを目標の一つとする。一方で、電気・熱伝導メカニズムの詳細理解のため、透過型電子顕微鏡により複合材料内部でのCNT結合状態を明らかにする。マクロスケールでは、樹脂中でのCNT分散性を評価し、ミクロスケールでは伝導に大きく寄与するCNT表面付近やCNT内部の炭素原子結合状態、また、CNT間結合状態を詳細に調査する。
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次年度使用額が生じた理由 |
継続的な外部機関での材料評価を実施した。年度後半で予定していた評価が、それまでの研究の進展により無用となったため、その分の予算が執行されなかった。 今後はより計画的に試料作製と評価を実施することとする。
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