研究課題/領域番号 |
16K06261
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
西 竜治 大阪大学, 超高圧電子顕微鏡センター, 准教授 (40243183)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 高次球面収差補正 / 微分代数法 / 色収差補正 / SYLC |
研究実績の概要 |
現在の電子顕微鏡用の収差補正器は磁気多極子を用いるものが実用化されている。収差補正器を構成する多極子は磁性体の高精度加工が必要なためコストが高くなりがちである。そのため収差補正器が搭載されるのは超高性能で価格の高い電子顕微鏡に限られているのが現状である。これに対し我々はより多くの電子顕微鏡すなわち走査電子顕微鏡に搭載可能なシンプルな構成の収差補正器を研究している。 平行な線電流を軸に対して回転対称に配置すると磁気多極子と類似の磁界を発生できることに着目し、これをSYLC(Symmetric Line Currens)と名付けた(巻線極子から名称を変更した)。わずか2本の平行線電流で4極子相当、3本であれば6極子相当の磁界を発生できる。また、構造的に磁性体を用いないので、磁性体に起因するヒステリシスの問題、加工精度の問題、コストの問題が解消される。 このSYLCを用いた収差補正器の特性を解析解およびコンピュータシミュレーションにて検証している。 4段のSYLCを配置したモデルを用いることで、5次までの幾何収差を補正でき走査電子顕微鏡用としてビーム径1nm以下を十分達成可能な条件があることをシミュレーションにて示した。更に、高性能を目指すため、わずかなビームエネルギーの揺らぎによる収差(色収差)の補正が可能な静電重畳SYLCの構造を提案・検討を行い、幾何収差に加え色収差補正条件を探索中である。 収差解析ツールとして微分代数法を取り入れた高次収差解析ツールに静電重畳SYLCの計算・色収差の最適化の改良を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
SYLCを使った球面収差補正器について5次までの収差の解析について国内学会発表および国際会議発表を行った。収差補正器を小型化する新たな構造モデルとしてインレンズ型のSYLCを提案し、論文発表した。 また、これを検証する微分代数を使った計算ツールの改良を加えて、7次までの幾何収差の検証を可能とした。 さらに、静電重畳SYLC構造に対応した計算プログラムを開発中であり、色収差の計算および色収差補正のための電流や電圧の最適化の機能を取り入れた。 計算プログラムの機能向上に注力したため、計算速度の向上のための並列化についての開発が滞っており、この点について当初計画から遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
静電重畳SYLC構造を使った色収差・球面収差補正器の最適化を行う。 微分代数法による収差解析ツールの最適化手法の改善と計算の高速化に向けたベクトル化やマルチコアによる並列処理の導入に取り組む。 さらに高角度軌道の場合でも解析できるように計算プログラムの拡張を行う予定。これによりステレオ観察系や輪帯照射系の場合の収差解析に適用できる。
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次年度使用額が生じた理由 |
収差計算プログラムの開発にあたって、計算の高速化より新しい計算モデルへ対応させることを優先したため、演算の並列化による高速化は次の段階で行うこととしたため。 プロセッサの技術革新により、Xeon Phiプロセッサと同等のベクトル幅を持ったXeonプロセッサまたはCore-XプロセッサにGPUを導入するのがより効果的であると考えられるように変わってきた。そのために並列化ソフトウェアの用意ができてから高速な機種を導入するのが費用対効果に優れる。そこで並列計算用にGPU搭載の高速PCを導入し、計算速度の向上を図る予定である。 また、収差補正器のパラメータの最適化アルゴリズムの重要性が高速化にも関わるため、情報収集のための書籍や旅費に当初予定より多く割り当てる予定である。
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