研究課題/領域番号 |
16K06264
|
研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
倉井 聡 山口大学, 創成科学研究科, 助教 (80304492)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 空間分解分光 / 窒化インジウムガリウム / ポテンシャル障壁 |
研究実績の概要 |
c面サファイア基板上に作製された青色~緑色で発光するInGaN/GaN量子井戸(QW)構造について、貫通転位近傍に形成される局所的なポテンシャル分布を近接場光学顕微分光(SNOM-PL)法を用いて室温にて評価した。観察領域の大部分においてGaNからの発光とInGaNからの発光(InGaN主発光)のみが観測されたが、緑色QWではそれらに加えてInGaN主発光の高エネルギー側に発光が現れる領域が点在することがわかった。緑色QWにおいて高エネルギー発光成分が現れる位置では、InGaN主発光は弱く、またGaN発光の暗点(貫通転位)との明確な相関はなかった。これらの実験事実から、緑色発光QWで観測された高エネルギー発光成分は貫通転位近傍のポテンシャル障壁モデルで説明できず、InGaN組成の多い緑色QWにおける貫通転位以外の組成・構造不均一を反映していると考えられた。 また、局所的に現れるこれらの発光と構造欠陥との相関の評価に、比較的簡便に広い領域対する顕微分光評価が可能な走査電子顕微鏡-カソードルミネッセンス(SEM-CL)法の適用を試みた。過去の低温SNOM-PL測定において貫通転位近傍にポテンシャル障壁の形成が確認されているIn組成比18 %の青緑色発光InGaN MQW構造に対して室温SEM-CL測定を行い、InGaN主ピークの高エネルギー側(450 nm)を中心波長として分光マッピング像を測定した結果、貫通転位(全光マッピング像の暗点)近傍に局所的な発光が観測された。InGaN主ピークと局所高エネルギー発光の発光エネルギー差は70~90 meV程度とSNOM-PL評価(75-110 meV)と比較して若干低く見積もられた。局所高エネルギー発光領域の密度は貫通転位密度より一桁以上低く、これは非輻射再結合の影響を強く受けているためと考えられた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の研究計画である低温でのSNOM-PL測定を繰り返し試みているにもかかわらず、測定の困難性、装置不良等により十分なデータが得られていない状況である。一部、不良点については改善点を洗い出し、H28年度末には測定データを得ることが出来る状況まで改善した。今後の研究進捗に期待が持てる。 他方、室温におけるSNOM-PL評価については、高In組成である緑色発光QWに特有の高エネルギー発光が存在することを明らかにしており、ポテンシャル障壁モデルで説明される発光と十分に区別をして考察することの必要性を明らかにしている。また、室温SEM-CL法を用いて、SNOM-PL法で明らかとなった「貫通転位近傍に形成されるポテンシャル障壁」に対応する局所発光分布を観測可能であることを確認した。測定原理上エネルギーの定量性に難があるものの、SEM-CL評価結果をSNOM-PL評価結果の補完として用いることができることがわかった。これら室温における観察結果を元に、低温評価を一気に進める体制が整った。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度は低温SNOM-PL測定に重点を置いて評価を行う。具体的には、低温から室温にかけて、開口径50 nm程度の細径近接場プローブを用いた高空間分解能SNOM-PL測定を行い、マッピング像の各測定点における発光スペクトルの発光強度と発光ピークエネルギーを求め、貫通転位(発光強度像中の暗点)とポテンシャル障壁の形状(発光ピークエネルギー像)の対応を明確にする(微細な描像を得る)。In組成の異なる青色QWと緑色QWについて、ポテンシャル障壁高さを定量化し、In組成がポテンシャル障壁高さに与える影響および内部量子効率との相関について考察する。 また、昨年度の緑色QWに対する室温SNOM-PL観察結果をもとに、様々な成長条件で作成された試料についてSNOM-PL評価を進め、それらを比較する。局所発光の貫通転位に関与しない局所高エネルギー発光領域、および貫通転位近傍のポテンシャル障壁の発光特性の温度依存性を比較する。以上の結果を元に、緑色発光QWに特有の局所高エネルギー発光の起源およびそれぞれの高効率発光機構への寄与について考察する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
近接場プローブを接続するための消耗品の製造メーカーが撤退したため、装置サプライヤーが新たな供給元を探すのに時間がかかり、年度内の価格決定に至らなかった。また、当該部品を代替品に変更することにより、従来と遜色なく実験が実施可能かどうかをテストすることが必要となったために、その期間を要した。以上によって、購入予定であるにもかかわらず年度内の支出が行えなかった。
|
次年度使用額の使用計画 |
近接場プローブを接続するための消耗品(金属フェルール およそ15万~20万円を予定)の購入に充当する予定である。安価な代替品により実験遂行が可能であることが判明すれば、実験用の液化ヘリウム他の物品の購入に充てる予定である。
|