研究課題/領域番号 |
16K06265
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
横川 俊哉 山口大学, 創成科学研究科, 教授 (70722106)
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研究分担者 |
上山 智 名城大学, 理工学部, 教授 (10340291)
真田 篤志 大阪大学, 基礎工学研究科, 教授 (20264905)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 窒化物系半導体 / トランジスタ / 電子親和力 / バンド構造 |
研究実績の概要 |
28年度の研究実績は以下の通りである。本研究の最終目標であるAlGaN系半導体を用いた真空チャネルトランジスタを実現するために、まずAlGaN系半導体の負の電子親和力を示すバンド構造などの基礎物性を明らかにした。正の電子親和力を有する半導体の場合、伝導帯端に存在する電子を真空中に取り出すためには、エネルギー障壁が存在するため、障壁を超えることのできるエネルギーを電子に与えなければならない。一方、AlGaN系半導体では負の電子親和力が期待される。負の電子親和力を有するAlGaN系半導体の場合は、表面の伝導帯端に存在する電子にとってエネルギー障壁が存在しないので、電子は容易に真空中に放出されることとなる。半導体表面に存在する電子を真空に取り出すための余分なエネルギーを必要としない。28年度はこの原理を検証するため、AlGaN系半導体の負の電子親和力を示すバンド構造をUPS(Ultraviolet Photoelectron Spectroscopy)を用いた系統的な実験によって明確にした。これによってデバイス最適設計のための基礎物性データベースを構築した。 次にAlGaN系半導体の電子伝導の機構を明らかにした。実際のデバイス構造においては、電子が放出される半導体の表面層に電子を導いてやる必要がある。しかしこの負の電子親和力を有したAlGaN系半導体は一般に平衡状態において伝導帯に電子は存在していない。したがって、電子放出が容易なAlGaN系半導体の表面層に効率的に電子を供給する必要がある。そこで伝導帯に注入された電子の伝導機構を明確にした。またさらに電子放出の効率向上のためカーボンナノチューブの接合を検討し、その接合における電子伝導を明らかにした。更にそれらの成果を集大成し、まだ特性は理想的ではないものの真空チャネルトランジスタの初期動作の確認を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
おおむね順調である理由として29年度の計画である最適デバイス設計に必須とされる基礎物性パラメータの明確化ができたことにある。次の通り28年度の具体的進捗があるためである。①UPS(Ultraviolet Photoelectron Spectroscopy)を用いてAlGaN系半導体の負の電子親和力を示すバンド構造など基礎物性を明らかにした。②AlGaN系半導体の電子伝導と機構を明らかにした。③電子伝導の結晶方位依存性を明らかにした。④電子放出の効率向上のためカーボンナノチューブの接合を検討し、その電子伝導を明らかにした。⑤まだ特性は理想的ではないものの真空チャネルトランジスタの初期動作の確認を行った。以上の五つの研究成果によって、次の段階としての特性向上に向けた真空チャネルトランジスタの最適構造設計を実施する基礎が仕上がったことにある。
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今後の研究の推進方策 |
29年度計画:AlGaN系半導体を用いた真空チャネルトランジスタのデバイス最適構造設計 計画通り28年度は、AlGaN系半導体の負の電子親和力を示すバンド構造、電子伝導機構などの基礎物性を系統的な実験によって調べ、デバイス設計のためのパラメータが得られた。そこで次の段階として、このデータベースを用いて真空チャネルトランジスタのデバイス最適構造設計を行う。本研究が目指す真空チャネルトランジスタのデバイス構造の例としては、特許の基礎出願で明示する通りエミッタがAlGaN系半導体で形成されたデバイスとなる。特許で示すように作製方法の提案としてはm面GaN基板上にAlGaN膜を成長する。その後、AlN膜をドライエッチング加工し、エミッタ―とコレクターをc軸方向に沿って対面するように形成する。その後、SiO2/Si基板に貼り合わせし、AlGaNエミッタ―とコレクター上にゲート絶縁膜とゲート電極を形成する。最後にGaN基板をエッチングすることによりSi基板にデバイスを転写する。これによりAlGaNエミッタ―を用いた真空チャネルトランジスタが形成される。このデバイス特性は上述のように作製されたプロセス条件や構造に強く依存する。すなわちデバイス特性の向上には、プロセス設計ならびにデバイス構造設計が不可欠である。そのため実験的に検証を行うと同時にデバイスシミュレーションも用いてプロセス設計ならびに最適構造設計を行う。これによって最適なプロセス、デバイス構造を得て、デバイス特性の向上を実現する。
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次年度使用額が生じた理由 |
名城大学におけるAlGaN系半導体結晶成長の条件最適化に時間を要し、真空チャネルトランジスタに適用可能な結晶の作製に遅れが生じたため。急遽28年度の実験は別のリソース(山口大学、大陽日酸、産総研)を使って行った。
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次年度使用額の使用計画 |
現在は名城大学におけるAlGaN系半導体結晶成長の条件最適化がほぼ完了しており、真空チャネルトランジスタに適用可能な結晶の作製を実施予定。
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