研究課題/領域番号 |
16K06266
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
熊谷 直人 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エネルギー・環境領域, 主任研究員 (40732152)
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研究分担者 |
北田 貴弘 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(理工学域), 特任教授 (90283738)
盧 翔孟 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(理工学域), 特任助教 (80708800)
南 康夫 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(理工学域), 特任准教授 (60578368)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 量子ドット / 光電流 / 光伝導アンテナ / テラヘルツ / 窒化ガリウム |
研究実績の概要 |
前年度は計画通り進まない時の対応として、InAs量子ドット積層構造の面内光伝導のメカニズム解明のため、産総研つくば事業所で光電流一定法(CPM)による吸収スペクトルの測定を行った。CPMでは単一波長の励起ではなく、ハロゲンランプを用いた分光励起であるため、スペクトルデータを得られることから、量子ドット積層構造の面内光伝導メカニズム解明には有効であると期待したが、この結果について解析を行ったところ、前年度での見積もりの通り、励起光がハロゲンランプであるため低励起条件になり、光電流は大幅に減少したものの、吸収スペクトルの傾向は観測できた。しかし、信号としては微弱であることから、大気中の水による1300nm付近の吸収の影響を受け、スペクトルのSNが悪く、1300~1500nm付近に肝心のInAs量子ドット層によるブロードな光吸収があることから、詳細な解析が困難であった。現在のCPM測定環境では窒素パージ等は難しいため、詳細な吸収スペクトルの取得が難しいと思われる。 一方でテラヘルツ光伝導アンテナ材料として、窒化ガリウムの検討を始めた。窒化ガリウムは高耐圧特性に優れており、高電界印加を必要とする光伝導アンテナに適した特性を持つことから、窒化ガリウムの高抵抗化を行った。光伝導アンテナ材料としては、暗電流の抑制、つまり暗時の高抵抗化が重要である。一つはノンドープ窒化ガリウムをMOCVDによりサファイア基板上に成長する際、バッファー層条件を変えて、高抵抗化を図ったもので、サブMΩ程度のシート抵抗を確認した。もう一つはハライド気相成長(HVPE)によるp型窒化ガリウムに対して高周波誘導結合プラズマ(ICP)照射を行い、高抵抗化した。ICP照射試料はコンベンショナルな測定系における電流電圧特性から、As-grownに対して少なくとも3桁以上の抵抗増を確認することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
初年度の前職から産総研つくば事業所への異動、続いて産総研名古屋大学連携研究サイトへの異動となり、つくば及び名古屋での試料のプロセス、測定系など研究環境の整備が中途半端になってしまい、遅滞している。当初計画のInAs量子ドットでは吸収域は赤外域である一方、窒化物半導体が主である名古屋大学連携研究サイトでは可視域光学系が中心であることや、電極材料やそのプロセスの違いなど、共通での使用、または兼用できる点が少なった点もある。しかしながら、光伝導アンテナ材料として高抵抗窒化ガリウムの試作が出来たことから、この光伝導特性を評価すべく準備を進めている。現任地の名古屋大学連携研究サイトでは高抵抗試料の電気測定が可能な高精度プローバや半導体パラメータアナライザが整備され、また266nmのレーザ光源が導入される予定であり、窒化ガリウムをレーザにより励起しての光電流測定が可能になる見込みである。また名古屋工業大学でのステッパーを用いた露光プロセスが整備され、光伝導アンテナに用いられる狭ギャップダイポールアンテナのパターン描画が可能である。
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今後の研究の推進方策 |
基本的にはまず高抵抗化を図った窒化ガリウム試料について、電極作製プロセスを行い、TLM法による接触抵抗の評価をする。接触抵抗の問題はこの後の光電流評価においても留意すべき点であるので、確認しておく必要がある。その後は4端子法によるシート抵抗や簡易的な電極を設けて電流電圧特性、そして面内光電流評価を進める。窒化ガリウムにおける光電流測定について前述の通り、窒化ガリウムを直接励起可能は波長266nmのレーザを導入される予定であり、これを軸に光学系を構築する。量子ドット構造ではないが、窒化ガリウムの光電流についての報告が殆ど無いので、新たな知見が期待できる。バンドギャップより小さなエネルギーの長波長励起の光電流評価も試みる。不純物によるバンドギャップ内準位について知見を得られる可能性がある。また、今年度整備される窒化物半導体用MOCVDを利用して、比較的高いIn組成をもつInGaN量子ドットをコンベンショナルに作製して、面内光電流を評価することが出来れば、材料系は異なるものの、量子ドット層の面内光電流のメカニズム解明につながると期待される。 次年度は最終年度であることから、可能であればダイポールアンテナの作製し、InAs量子ドット積層試料または窒化ガリウム試料でダイポールアンテナ構造での光電流評価を行いたい。特にこれまでInAs量子ドット積層試料でのダイポールアンテナ作製時のエッチングプロセスはウェットであったが、今後はICPやRIEを用いたドライプロセスで行うので、電極部分のより良いアイソレーションが可能であり、さらなる高抵抗化が期待できる。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度に前任地から産総研つくば事業所、その年末につくばから同所名古屋大学連携研究サイトへの異動があり、今年度においても環境整備については困難な面があった。そのため、旅費や分担者の消耗品を主とした使用にとどまり、学会発表なども無かったことから、次年度使用が生じた。次年度は主に光電流測定に向けたソースメータ等の備品の他、光学部品やフォトリソ用マスクなどの購入を予定している。また、分担者所属先である徳島大学でのInAs量子ドット積層試料の作製に必要な分子線エピタキシー装置関連の消耗品、徳島大学への出張を予定している。
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