研究課題/領域番号 |
16K06269
|
研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
末吉 哲郎 熊本大学, 大学院先端科学研究部(工), 助教 (20315287)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 高温超伝導体 / 臨界電流密度 / 異方性 / 磁束ピンニング / 照射欠陥 |
研究実績の概要 |
平成28年度では,高温超伝導体においてc軸に平行な磁場(B || c)での量子化磁束(アブリコソフ磁束)のピン止めに有効な線状の格子欠陥が,ab面に平行な磁場(B || ab)での量子化磁束(ジョセフソン磁束)のピン止めにどのように影響を与えるかについて明らかにするために,まずc軸配向したGdBCO超伝導テープ線材のテープ面(ab面)に対して交差した線状の照射欠陥を重イオン照射により導入し,B || abでの臨界電流密度Jcに与える影響について調べた.交差角を系統的に制御して線状格子欠陥を導入したGdBCO超伝導テープ線材でのJcの磁場角度依存性から,ab面に対して±5°以下の交差角の線状格子欠陥ではB || abでのJcの向上に寄与するが,±10°以上の交差角になると,それぞれの線状格子欠陥に平行な磁場ではJcを増加させるが,交差の鋭角側であるB || abでのJcは未照射試料の値とほぼ変わらず,B || abでのピン止めに影響を与えないことが明らかにした.これに対し,B || cのJcでは,c軸に対する線状格子欠陥の交差角が±45°においてもその影響を受けて向上する.以上のB || cとB || abでのJcの向上に寄与する線状格子欠陥の交差角の違いは,量子化磁束の線張力の異方性を考慮することで定量的に説明できることを示した.この結果は,B || c付近での線状格子欠陥によるピン止めと比較して,B || ab付近ではその磁束ピン止めの有効な磁場方向範囲は非常に狭いことを意味しており,実験的に初めて言及した結果である.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では,高温超伝導体の全磁場方向での臨界電流密度Jcの高特性化を実現するために,ab面に平行な磁場方向に特化した量子化磁束のピン止め構造を明らかにすることが一つのポイントと考えている.平成28年度においては,高温超伝導コート線材のab面に対して交差した線状格子欠陥を重イオン照射を用いて導入し,B || cで有効なピン止め特性を示す線状格子欠陥の,B ||ab付近でのピン止め現象を明らかにすることを試みた. ab面に対して交差角を制御して線状格子欠陥を導入することで,B || ab付近での線状格子欠陥のピン止め特性が系統的に明らかになり,線状格子欠陥の磁束ピン止めの影響が現れる磁場角度範囲は,B || c付近と比較して非常に狭いことを示した.このことは,B ||ab 付近特有の量子化磁束の磁束ピン止め特性の一つを明らかにしたことになり,B || ab付近のJcの改善を図る上では,線状格子欠陥による磁束ピン止めは効率が悪いという設計指針を示した.
|
今後の研究の推進方策 |
平成28年度の研究成果より,B || ab付近では交差した線状格子欠陥の磁束ピン止めが有効となる磁場方向が広範囲に及ばず,これは磁束線の線張力の異方性に起因していることが明らかになった.平成29年度では,a軸配向YBCO薄膜を用いることで,重イオン照射によりab面方向に平行な線状格子欠陥を導入し,次の2点からB || abの量子化磁束に平行な線状格子欠陥の磁束ピン止め現象の本質を明らかにすることを試みる. (1) c軸面内配列a軸配向YBCO配向膜の膜面に対して垂直な重イオン照射により,a軸に平行な線状格子欠陥を導入し,B || abでの量子化磁束の磁束ピン止め効果を明らかにする. (2) さらに重イオン照射のエネルギーを抑えることで(Xeイオン,80 MeV),YBCO薄膜中に不連続な線状格子欠陥を導入できる.これをa軸配向YBCO薄膜のa軸に平行に導入することで,B || abでの量子化磁束に対する有効なピン止め点として線状的な格子欠陥が適しているか否かについて明らかにすることを試みる.
|
次年度使用額が生じた理由 |
c軸配向GdBCOテープ線材におけるab面方向に対して交差した線状格子欠陥によるピン止め特性の評価を完遂させるために,当初同時進行で予定していたc軸面内配列a軸配向YBa2Cu3Oy薄膜での重イオン照射効果の評価を翌年度に回したため,その基板材料SrLaGaO4(\14,6000 @ 3枚)と中間層Gd2CuO4のターゲット(\70,000@1個)の購入を控えた.また,高温超伝導薄膜の作製時に用いるKrFエキシマレーザーを駆動するためのガスの一つであるNeガスについては在庫で賄えた.以上の理由により,未使用額が生じた.
|
次年度使用額の使用計画 |
c軸面内配列a軸配向YBa2Cu3Oy薄膜を作製するために必要な基板材料SrLaGaO4と中間層Gd2CuO4のターゲット,KrFエキシマレーザー駆動のためのNeガスの費用として未使用額を使用し,平成29年度の研究計画を遂行する.
|