研究課題/領域番号 |
16K06273
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研究機関 | 千葉工業大学 |
研究代表者 |
安川 雪子 千葉工業大学, 工学部, 准教授 (10458995)
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研究分担者 |
劉 小晰 信州大学, 学術研究院工学系, 教授 (10372509) [辞退]
森迫 昭光 信州大学, 工学部, 特任教授 (20115380)
小林 政信 千葉工業大学, 工学部, 教授 (70296325)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 磁性合金薄膜 / 垂直磁気異方性 / 磁気光学効果 / カー回転角 / 金ナノ粒子 / 局在表面プラズモン共鳴 |
研究実績の概要 |
本研究では、TbFeCo薄膜およびAuナノ粒子上にTbFeCo薄膜を堆積したTbFeCo/Auナノ粒子試料をマグネトロンスパッタ法で作製した。TbFeCoは非常に酸化し易いため、試料の酸化を可能な限り抑制する実験条件を慎重に探索し、TbFeCoの本質的な物理特性に基づく研究と議論を目指した。 TbFeCoの酸化抑制条件の確立により、作製した試料のTb、Fe、Co各元素はOと未結合であり、ほぼ単体のTb、Fe、Co各元素によって構成される薄膜を作製することができた。これはXPSによる深さに対する元素の化学結合状態と定量結果からも検証している。またTbFeCoの酸化抑制は、垂直磁気異方性の発現とも非常に密接な相関があり、我々の確立した条件で作製した試料の磁気特性測定より、垂直方向の保磁力は約6.5 kOeと非常に優れた垂直磁気異方性を得ることができた。 このような優れた垂直磁気異方性を示すTbFeCo薄膜の磁気光学効果について、極カー回転角から評価した。入射光の波長を250~900 nmまで変化させてカー回転角を測定したところ、カー回転角の絶対値は最大で約0.1°であった。一方、TbFeCo/Auナノ粒子試料については、カー回転角の絶対値は最大で約0.3°であり、TbFeCo薄膜単層よりもカー回転角が大きい結果となった。 本研究ではTbFeCo薄膜もTbFeCo/Auナノ粒子試料も、TbFeCoの成膜条件は同一である。それにもかかわらず磁気光学特性において特にTbFeCo/Auナノ粒子試料の方が大きなカー回転角を示した理由については、Auナノ粒子の局在表面プラズモン共鳴波長において、Auナノ粒子に発生する近接場とTbFeCo薄膜の界面の結合による磁気カー効果の増大、あるいはAuナノ粒子のナノ構造に由来した磁気カー効果の増大によるものであると考察しており、今後さらに検討を進める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度は本科学研究費に関する研究成果を査読付きの国際学術雑誌に1件発表し、この論文の被引用回数は順調に伸びている。また現在、本研究に関する学術論文2件が投稿目前となっている。 その他、平成28年度内に国内学術学会で複数の発表を行っており、国際学術学会への招待講演の依頼2件を予定している。従って本研究の進捗はおおむね順調であると評価している。
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今後の研究の推進方策 |
1.Auナノ粒子の局在表面プラズモン共鳴の高効率化 現状では基板上に直接Auナノ粒子の自己組織化構造を形成しているが、Auナノ粒子の形状と粒径が均一で、さらに粒子の規則配列性が極めて高い場合、磁性薄膜に対するAuナノ粒子による局在表面プラズモン共鳴の効果が、より向上するとの報告がある。そこで基板上にZnO薄膜を堆積させ、その上にAuナノ粒子を自己組織化させてAuナノ粒子の規則配列性を一層厳密に制御する研究を予定している。 2.TbFeCo薄膜の膜厚制御による局在表面プラズモン共鳴の高効率化 Auナノ粒子の粒径とTbFeCo薄膜の膜厚は、Auナノ粒子に発生する近接場とTbFeCo薄膜の界面の結合に直接的に影響を与える。従ってTbFeCo薄膜の磁気光学効果に対して非常に重要なパラメータとなるはずである。そこで今後はAuナノ粒子の粒径を一定としたうえで、この粒子上に様々な膜厚のTbFeCo薄膜を堆積させ、TbFeCo薄膜の極カー回転角を測定することによって磁気光学効果へ膜厚の影響を詳細に測定・評価する。 3.界面状態の評価 現在、TbFeCo/Auナノ粒子試料の微細構造の観察を進めている。これまでの知見より、この試料の微細構造は特異的で、粒子から薄膜側への原子拡散の傾向を見て取ることができた。本研究ではAuナノ粒子の局在表面プラズモン共鳴波長における近接場と、TbFeCo薄膜の界面の結合が磁気光学効果の鍵となる。従って、TbFeCoとAuの界面状態の観察・評価が磁気光学効果の解明には不可欠である。今後は界面における原子拡散をさらに詳細に観察すると共に、原子拡散の起きた界面が如何に磁気光学効果に影響を与えるかを定量的に評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度に予定していた外部機関での実験を実施する際の旅費に関して次年度使用額が発生した。 これは、外部で予定していた実験の実験装置の故障等による修理により実験の実施が延期した等の理由によるものである。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額は、当初の計画と同じ外部機関での実験を実施する際の旅費として使用する予定である。
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