研究課題/領域番号 |
16K06274
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
杉山 睦 東京理科大学, 理工学部電気電子情報工学科, 准教授 (40385521)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 酸化ニッケル / 酸化亜鉛 / トランジスタ / 透明太陽電池 |
研究実績の概要 |
酸化物半導体は、大きなバンドギャップを有するため透明であるもののp型導電性が得られにくいため、オール酸化物半導体デバイスへの応用には制限があった。本課題は、p型導電性を有する酸化ニッケル(NiO)をベースに、他の酸化物半導体と組み合わせて、透明な太陽電池・センサ・トランジスタを簡便なスパッタリングで作製し、窓自身が発電した電力で窓表面に作りこまれたセンサ等が動作する『酸化物半導体を用いた発電機能を有するスマートウィンドウ』を試作することを目的としている。
通常NiO薄膜をスパッタ製膜する場合、「透明度」と「高結晶品質」という、本コンセプトの必須条件が満たされることがなかった。平成28年度は、透明デバイス実現のために、成長中の酸素原子の脱離を抑制しながら成長基板を加熱することで「可視光領域の透過率85%以上」「キャリア密度10^16~10^17cm-3程度のp型導電性」を有するNiO薄膜をRFスパッタ製膜した。また、NiOの製膜条件に合わせた各種n型酸化物半導体の成膜も、pn接合作成時に形成する欠陥の抑制や光透過率の劣化抑制などに注意しながら併せて行なった。
また、基本的な透明太陽電池・ダイオードやセンサの試作を行った。p型光吸収層以外の材料は、耐性が高く安価なZnO、SnO2、TiO2およびその混晶を中心に、材料の選定から見直した。また、トランジスタはp型NiOおよびn型ZnO半導体を導電性基板上に堆積したSiO2誘電体上にFET構造を試作した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
・平成28年度は、透明デバイス実現のために「可視光領域の透過率85%以上」「キャリア密度10^16~10^17cm-3程度」のp型NiO薄膜およびn型SnO2薄膜をRFスパッタ堆積した。成長中の酸素原子の脱離を抑制しながら成長基板を加熱するための装置の改修を行ったことで、目標値の物性を有する酸化物薄膜を得ることが出来た。
・また、これまで半導体材料としての研究報告例自体が少なかったNiOについて、Li添加および無添加時のスパッタ条件と薄膜の電気特性の相関について明らかにし、学会などで報告した。また、Liモル分率5%のNiOターゲットを酸素:アルゴン3:97の条件でスパッタし作製したNiO/ZnO太陽電池について、ZnO薄膜内のキャリア密度を変化させ、空乏層を適切に設計することで、発電効率が向上した。
・更に、平成29年度に実施予定だった各種デバイスの試作を前倒して行い、SnO2を用いたCO2センサ、NiO/GaNを用いた発光ダイオード、およびNiOとZnOを用いた薄膜トランジスタと透明太陽電池を試作し、作製プロセス中の問題点を明らかにすることで、次年度以上の研究方針を明確化させた。
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今後の研究の推進方策 |
・平成29年度は、[1]NiOの光学特性の解明・pn界面付近の欠陥・キャリア密度などの制御、および、[2]透明センサ・ダイオード・トランジスタの試作と透明太陽電池との融合、に関する以下のような研究を推進する。
[1]これまで半導体材料として着目されていなかったNiO薄膜の半導体諸物性を調査する。とりわけデバイス設計に必須な光学特性(非輻射性欠陥・固有点欠陥など)と電気特性(ドーピング・キャリアの振る舞い)との相関に関する報告が皆無に等しいのが現状である。これらが解明出来れば、エネルギーハーベストデバイスの理論設計が可能になるだけでなく、「より透明に」「より低抵抗に」する作製条件を明確にすることが出来る。太陽電池・センサ・ダイオードなど、エネルギーハーベストデバイスは構成する素子毎に最適な条件が異なるため、デバイスの動作シミュレーションと並行して、各素子が適切な「透明性」と「電気伝導性」を兼ね備えることが出来るようにする。ここで得られた結果を迅速にデバイス作製条件にフィードバックすることで、高効率太陽電池や透明なエネルギーハーベストデバイスを作製する事が可能となる。
[2]スマートウィンドウとして極めてシンプルで初歩的な、光をセンジングするデバイスを試作することで、NiO系材料のエネルギーハーベストデバイスとしての応用可能性を示す。NiO薄膜をベースとし、pn接合を基にした透明太陽電池、透明ダイオード(光センサ)を作成し、まずは別々に動作確認を行う。また、TFT構造を用いたトランジスタを、まずは扱いやすいSi基板上に作製し、動作を確認した後、透明導電性基板上に試作する。疑似太陽光を照射し、各パートの電気特性を確認し、デバイスとしての性能向上を目指すと共に、界面付近のキャリア密度の変化を検討することで、理学的側面から酸化物半導体を用いたスマートウィンドウの設計を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
順調に研究が進み、予算消化してきた結果、最後に端数が残高となった。
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次年度使用額の使用計画 |
試薬などの消耗品を購入する予定。
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