研究課題/領域番号 |
16K06279
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研究機関 | 大阪工業大学 |
研究代表者 |
藤元 章 大阪工業大学, 工学部, 准教授 (90388348)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | グラフェン / 電子-正孔パドル / 超伝導 / ファンデルワールスヘテロ接合 / 酸化インジウム |
研究実績の概要 |
グラフェンにおけるチタンクリーニングとは,電子ビーム蒸着により 2 nmのTiをグラフェン表面に付け,そのTiを空気中で酸化させた後,フッ酸でTiOxを除去するプロセスである。FermiエネルギーがDirac点の近傍にある場合の電気特性は,グラフェンの表面状態や,荷電不純物などによるDisorderの影響を受ける。今年度はチタンクリーニングされた単層グラフェンのHall barの電荷中性点付近の縦抵抗とHall抵抗の温度依存性を調べ,正孔濃度が温度の2乗に従って変化することが分かった。電子-正孔パドルなどのDisorderによる影響を考慮した理論を用い,正孔濃度の温度依存性の実験結果のフィッティング解析を行うと,Disorderによるポテンシャルゆらぎの大きさが 48meVと求められ,この値は先行研究のエピタキシャルグラフェンよりも大きな値である。CVDグラフェンのDisorderがエピタキシャルグラフェンよりも大きいことを反映していると考えられる。 グラフェン転写過程における樹脂材料をPMMAからポリカーボネート樹脂へ変更した。ポリカーボネート樹脂を用いたグラフェンFETでは,電荷中性点の存在を確認することが確認できた。酸化インジウムナノ粒子をグラフェンに修飾し,被表面積を増やすことにより,ガスセンサーの感度の向上が期待されている。酸化インジウムナノ粒子を修飾したグラフェン試料を作製し,その電気特性の評価を行っている。テトラチオモリブデン酸アンモニウムとチオアセトアミドを用い,水熱合成法による二硫化モリブデンの作製を行った。しかし,as-grownの試料ではラマン散乱強度が小さかった。この試料を真空中で500℃1時間加熱することにより,2つのバンドの信号強度が大きくなった。真空加熱により二硫化モリブデンの結晶性が向上した可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度に続き,チタンクリーニングを行ったグラフェンの量子輸送特性の研究は順調に進んでいる。研究実績の概要で上述した通り,今年度はチタンクリーニングを行った単層グラフェンの電荷中性点付近のポテンシャルゆらぎの評価を行うことができた。この内容については,2018年の春の物理学会で学会発表を行った。科研費の応募書類内で書いた課題1の「チタンクリーニングを行った単層グラフェンとSymFETの弱局在効果」については,十分に研究を進捗させることができたと言える。 アルカリハライドであるKClを吸着させたグラフェンの研究も引き続き行っているが,再現性の高い電気測定の結果を得ることができていない。研究実績の概要で上述した通り,水熱合成法による二硫化モリブデン(MoS2)の作製ができるようになり,良好なラマン散乱測定結果も得られた。我々の研究グループで作製したMoS2の電気特性や超伝導特性が得られるように研究を進めていく予定である。科研費の応募書類内で書いた課題2の「アルカリ金属を吸着させた原子層薄膜の電気特性と超伝導」については,成果が得られるように引き続き研究を行う。 課題3の「原子層薄膜を用いた2層構造・ヘテロ構造のデバイス作製とその特性評価」については,研究を着手することができた。グラフェン/MoS2/グラフェンのファンデルワールスヘテロ接合デバイスを作製し,低温・強磁場中でトンネル磁気抵抗を測定した。ゲート電圧や磁場の変化による層間抵抗の増減が観測され,特に,ゲート電圧が0V近傍において,磁場に対する層間抵抗の極大が2箇所現れる現象が確認された。詳細な実験や解析を今後進める予定である。さらに,本研究課題名の表面吸着と電子デバイス応用をキーワードとして,化学的な熱分解法やゾルゲル法を用いて作製した酸化インジウムをグラフェン表面にスピンコートしたデバイスの作製を試みた。
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今後の研究の推進方策 |
グラフェン上でNaClやKClなどのアルカリハライド結晶を融解させてアニールし,または,これらの水溶液中にグラフェンを浸けることにより,原子層薄膜にアルカリ金属を吸着させ,もしくはアルカリ金属をドーピングすることが可能であると考えられる。アルカリ金属が吸着やドーピングされたグラフェンの電気特性・超伝導特性を調べ,半導体-超伝導転移を観測する。また,インジウムなどの金属材料をグラフェン表面に積層させた系でも超伝導の発現が報告されており,チタンクリーニングの実験に加えて,新たな金属材料とグラフェンを組み合わせた系での展開が期待できる。 ファンデルワールスヘテロ接合などの原子層薄膜を用いた2層構造のデバイスを作製するため,二硫化モリブデンの試料作製に取り組む。MoS2は,グラフェンよりもスピン-軌道相互作用(SOI)が大きい。MoS2トランジスタを作製し,低温の量子輸送現象を調べることにより,弱反局在効果による磁気抵抗から,SOIの効果がどの程度大きいか明確にする。併せて超伝導特性の研究も進める。グラフェン/MoS2のショットーキー型のデバイスやグラフェン/ MoS2/グラフェンの3層構造の作製に取り組み,量子輸送測定のみだけでなく,これらを用いたガスセンサーなどの応用デバイスへの展開を目指す。NOガス,COガス,アンモニアガスなどの応答を調べ,Langmuirの等温吸着解析を行う。酸化インジウムを修飾させたグラフェンの電気特性についても継続して研究を進め,同じガスセンサーとしての応用を狙う。このように,グラフェンと中心とした高移動度ファンデルワールスデバイス作製による新奇な物性開拓や,分子修飾や原子層堆積法およびファンデルワールスデバイス作製よるガスセンサーなどの高機能デバイスへの応用を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度は2次元電子系の国際会議(EP2DS)に参加し,酸化インジウムの電気特性についての研究発表を行い,科研費テーマの内容でなかったため,国際会議の旅費として科研費を使用しなかった。また,グラフェン関連の国際学会の出張に行かず,国内学会の出張旅費のみで十分になった。そのため旅費が予定より残ってしまった。物品費についても,節約しながら予算の使用を心がけたため,当初の予定よりも残金が生じた。 今年度は夏の国際会議でグラフェン関連の発表を行う予定で,さらに国内学会にも例年通り,参加・発表を行う予定なので,旅費予算が余ることなく,十分に使い切る予定である。また,実験を行う上で,CVDグラフェンを多く使用するので,消耗品費を主とする物品費についても,グラフェンの購入に充てる予定である。
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