研究課題/領域番号 |
16K06280
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研究機関 | 大阪工業大学 |
研究代表者 |
金藤 敬一 大阪工業大学, 工学部, 教授 (70124766)
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研究分担者 |
宇戸 禎仁 大阪工業大学, 工学部, 教授 (20298798)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ソフトアクチュエータ / 導電性高分子 / 電解伸縮 / 人工筋肉 / 伸縮率 / 伸縮力 / ポリピロール / イオン半径 |
研究実績の概要 |
ソフトアクチュエータは、モータに代わる軽量、低ノイズのロボットや医療機器などを駆動する人間親和性が高い動力源(人工筋肉)として期待されている将来技術である。導電性高分子はソフトアクチュエータの有力な材料として、これまで長年に亘って研究開発が進められているが、未解決の課題が多くある。例えば、伸縮率、収縮力、応答速度、耐久性など総合的な観点からは実用レベルのパフォーマンスには至っていない。 本研究では、伸縮率と応答速度の改善による高機能化を目標に研究を推進している。本年度は伸縮率と応答速度を律速している要因を、動作メカニズムの原理に立ち戻って明らかにすることによって、根本的で具体的な解決策を提案し、問題解決を狙う。 導電性高分子は、電解液中で電気化学的な酸化・還元することによってアニオン若しくはカチオンのドーパントが出入りして、その体積分が形状変化となって伸縮する(電解伸縮と呼ぶ)。嵩高いイオンを用いれば、伸縮率は大きくなるが、イオンの拡散速度が遅くなり、伸縮の応答速度が低下する。また、伸縮率を大きくするには、高い印加電圧を架けて出入りするイオン数を多くすればよいが、劣化の原因となる。更に、伸縮力を増大すると伸縮率が低下することが判っている。このようなトレードオフ関係にあるパラメータを共に改善するには、電解伸縮のメカニズムの詳細に解明が必須である。 平成28年度はポリピロール、ポリアニリンを用いて電解伸縮率を決定するイオンが、電解酸化によってどのような形態でインタカレート(挿入)されているかを詳細に調べた。また、伸縮力は導電性高分子材料の弾性力と直接関連しているので、試料の合成方法、ドーパントの種類による材料物性と伸縮力および伸縮率との関係を明らかにした。その結果の例として、ドーパントイオンは、僅かに溶媒和をしてインタカレートされたイオン結合であると推定できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題は、複数年度で研究を推進しており、平成28年度の研究立ち上げからのスタートである。実験設備の導入と調整、研究体制の構築などに幾分期間を要したが、成果は当初目標を概ね達成していると評価できる。成果の具体的な内容について、次に述べる。 平成28年度の研究計画調書の目標として、(1)分子変形に基づく電解伸縮の構築と、(2)高速応答への改善を挙げた。本課題を達成するには、電解伸縮の詳細なメカニズムの解明が必要で、伸縮率の電解質依存性の測定を行った。即ち、イオン種による伸縮率の違いを厳密に測定し、どのような形態でイオンが導電性高分子内に挿入(インタカレート)されているかについて詳細に調べた。一般に、物質の体積は構成する原子の種類とそれらの結合様式に依存し、共有結合、イオン結合、金属結合、分子結合などのモデルが知られている。これらのモデルと導電性高分子内にインタカレートされたイオンの結合様式を比較した。その結果、安息香酸メチルとTBABF4を用いて電解重合によって得られるポリピロールのアニオンドーピングによる電解伸縮では、水和したイオン半径(ストークス半径)よりかなり小さいイオン結合の大きさで挿入されていることが判った。つまりポリピロールがインタカレートした状態は、結合力の比較的大きいイオン性結合であることが判った。このことは、ドーパントと高分子鎖の結合が強いためポリマー内でのイオンの拡散が遅いことを示唆するものである。つまり、高速応答のアクチュエータ開発には、イオン種には、従来の概念とは違った新規な電解伸縮メカニズムを提案しなければならないことが分かった。また、導電性高分子の物性評価を行うために導入した荷重試験機を用いて、ポリアニリンの弾性率と伸縮力の相関を調べ、伸縮メカニズムの解明に役立てた。 以上の結果から総合的に判断して本年度の進捗状況として(2)の区分評価に至った。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の最終目標は、導電性高分子フィルムによるソフトアクチュエータの実用化であるが、電解伸縮の詳細な基礎科学的な解明も重要である。平成28年度の研究成果から、新しい事実が明らかになってきた。例えば、導電性高分子の酸化によってインタカレートされるイオンの結合様式については、これまで全く知られていなかったが、この点が明らかになったことは高く評価される。この結果は、計画調書の段階では予想していなかった成果で、電解伸縮を新規なメカニズムへ展開していく可能性が得られた。ポリマーの分子変形に基づく伸縮メカニズムへ具体的にアプローチできるかも知れない。 当初の研究計画とこれまでの成果に鑑み、今後の研究は下記に箇条書きする内容に沿って推進する。 ①電解伸縮はドーパントイオンが挿入されてその体積分が導電性高分子を膨潤させて伸縮するものであるが、これまで3次元の等方的な変形を仮定してきたが、導電性高分子のフィルムは作成過程で、フィルム面内と厚さ方向ではモルフォロジーが異方的であると推定される。そこで、厚さ方向の電解伸縮率を測定して、電解伸縮の異方性について調べる。②フィルムの厚さ方向の伸縮は1次元の体積変化で、これまで評価してきたフィルムの長さ方向とは異なった伸縮率が期待され、3次元の等方的伸縮率の3倍が予想される。この予想が正しいかどうか、実験的に検証する。③厚さ方向の伸縮率測定では、電極からの距離が数十μmとなるため、高速応答の伸縮が期待され、その実験的検証を行う。④これまでドーパントイオンの種類によるサイズと電解伸縮率について、その相関関係を明らかにしてきたが、サイズと応答速度についてはこれまで調べられていなかった。今後は、このイオンサイズと応答速度について体系的な研究を行う。⑤また、ドーパントのイオン種と収縮率の相関を明らかにし、電解伸縮のパフォーマンスの最適化を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
本差額残金の理由は、無駄遣いを避けるため物品の代金が定価より廉価に購入できたために余剰したものである。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度以降に必要な物品、例えば、高価な導電性高分子材料の購入に充て、科研費の効果的な研究活動に用いる。また、研究成果の論文発表に掛かる費用として利用する。
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