研究課題/領域番号 |
16K06284
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
長田 貴弘 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点, 主任研究員 (10421439)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 強誘電体 / 焦電性 / 低次元材料 / 表面電荷 |
研究実績の概要 |
本研究は、多機能強誘電体結晶(LiNbO3、以下LN)を基板とし、光/熱によりに変化する分極・表面電荷(焦電/光起電力効果と表面に誘起されるスクリーン電荷の効果を指す)が、基板上のπ電子系材料の電気特性に及ぼす影響を解明・制御することを目的とする。素子として、基板極性のパターン化および焦電/光起電力効果によるπ電子系材料の電気特性制御と電界効果型素子構造を有し、自立駆動可能なセンサー素子の動作確認も目的とする。 これまでの実績としては、LN基板に単層グラフェンを転写した試料の抵抗率の温度依存性を確認した。基板表面処理、電極構造の見直しにより、室温から400℃までの温度変化に対して二桁の抵抗率変化を実現している。また分極方向の異なる面において+分極方向で高抵抗化と大きな抵抗変化が確認される。これはπ電子系材料/極性酸化物界面の電子状態評価の結果から、分極がπ電子の電子分布に影響を及ぼし+極性面において電子が強く局在化することに対応すると考えられる。これに対して-極性面については界面の水分子の影響などを考慮する必要があり、今期にサイクル測定を実施することで150℃での抵抗変化を確認し、水分子の影響を分離しての測定が可能となった。また、多層グラフェンを用いることで表面電荷が影響する距離についての検討を行った。1~2層のグラフェンでは再現性高く、LNの表面電荷に由来する抵抗率の変化を確認した。3層以上では変化率のばらつきが大きくなり、センサーとして利用するには1~2層の分子層が適当であることが解った。これらの結果の一部は現在、論文投稿を準備している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
グラフェン/LN界面において、環境によってグラフェンの導電率が変化し、その傾向が分極方向と焦電性に関連していることは確認された。現状ではこの現象は、理論的に予想される分極方向の変化に関しては、+極性面では説明できるが‐極性面では効果が小さく、分極方向から期待される効果とは異なり、+極性と同じ高抵抗化が確認された。これは、-極性面では、表面電荷のスクリーニング効果がホール(正チャージ)になるため、実際の効果が大気中の水分などによって相殺されるためと考えられる。今期は+極性面上に多層グラフェンを転写した試料で電気特性を詳細に検討した。温度依存性のサイクル測定では真空中で、室温から400℃までの温度範囲での抵抗率測定を実施した。大気中から真空中に試料を導入した直後の測定では、グラフェンの積層数に関係無く150℃に変化率のピークが確認された。サイクル数の増加により、積層数が多くなるほど抵抗率の変化が減少する傾向を示すが2層までは再現性を示す結果であった。抵抗率についても積層数で規格化した場合に3層以上の積層数から劇的に抵抗率が減少することから、表面電荷を用いた伝導性制御では1~2層の分子層が適当であることが明らかとなった。-極性面での検討は残っているが低温側の測定系の整備も整い、次年度はセンサー機能についての検討を行う。
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今後の研究の推進方策 |
研究は、概ね順調に進展しており、研究方針に関して変更はない。昨年度、問題となっていた測定系の制御は解決され、多層グラフェンでの定量測定を達成し、吸着物質の影響を明らかにした。H30年度は、極性効果の制御を目指した分極のパターン基板の効果の検討と、半導体特性を示すペンタセンを組みあわせたキャリア制御とセンサー機能の検証を中心に検討を行う。実施内容としては以下に挙げる内容を行う予定である。 1)電界効果型素子でのチャネル層の導電性制御:これまでは基本的に通常状態で電流が流れるNormally ONの状態であった。これをNormally OFF状態も実現するために、導電性解析の結果を基にLN上の多層グラフェンと他のπ電子材料を比較検討する。 2)電荷蓄積技術と融合した自立駆動型電界効果型素子の試作:表面電荷蓄積技術を使うことでチャネル層への電位勾配が環境エネルギー(最初は焦電性)によって生じる電界効果型素子の試作を試みる。 2)に関しては、研究期間内では簡単な動作が可能か素子構造の検討にとどまる予定である。
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