研究課題/領域番号 |
16K06291
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
島影 尚 茨城大学, 工学部, 教授 (80359091)
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研究分担者 |
川上 彰 国立研究開発法人情報通信研究機構, 未来ICT研究所フロンティア創造総合研究室, 主任研究員 (90359092)
武田 正典 静岡大学, 工学部, 講師 (80470061)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 超伝導デバイス |
研究実績の概要 |
本研究課題では、高温超伝導体を用いて、簡便な冷凍機で動作する、発振器を内蔵した高性能テラヘルツ帯ヘテロダイン受信機実現の実現を目指している。提案する受信機を構成においては、基本的な能動デバイスとしてYBCOやBSCCOの高温超伝導体を用いる。受信機のヘテロダイン動作において必要な要素である局部発振器はBSCCOジョセフソン接合からのジョセフソン発振を用い、また、ミキシング検出器は、YBCOジョセフソン接合によるジョセフソン電流の非線形性を用いる。この提案する検出器は、BSCCOによる局部発振器を内蔵することにより外部参照信号発振器なしでミキシング動作が可能であり、かつ、高温超伝導を用いることにより、簡便な冷凍機で動作が可能という特徴を持つ。本研究期間終了までには、提案のヘテロダイン受信機を作製し、検出器の有用性を実証することを目標としている。平成28年度は、テラヘルツ発振器としてのBSCCOのジョセフソン接合の作製法の確立、テラヘルツミキシング素子としてのYBCOジョセフソン接合の作製法の研究を行った。BSCCOジョセフソン接合に関しては、これまでの作製法で使用しているスパッタエッチング方法においては、素子に対して熱によるダメージを与えてしまっていた。そこで新たにスパッタエッチングを用いない接合作製方法の確立に向け研究を行った。その結果、作製した接合の特性がより理想的なものに近い結果が得られた。YBCOジョセフソン接合作製法研究に関しては、接合の作製プロセスの確立までは順調に進んでおり、その電流電圧特性の評価まで進んでいたが、年度後半で、YBCO成膜に使用しているレーザーの不調があり、現在、レーザーの調整を行っている状況である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
テラヘルツ発振器としてのBSCCOのジョセフソン接合の作製法の研究については、今までは、接合の作成時に行うエッチングに対し、スパッタエッチングを用いて、接合部を作製していた。BSCCO単結晶は希塩酸に浸漬させるとBSCCOの表面が絶縁化していくことがわかっているので、本年度は、その絶縁化を利用し、接合部分以外の絶縁化に希塩酸浸漬を用いる接合作製法を研究した。希塩酸の濃度や浸漬時間により、サイドエッチングが起こることがわかったが、最適化を行い、接合作製のプロセスが確立した。スパッタエッチングを行わないことにより、熱による接合へのダメージがなくなったことから、作製した接合の電流電圧特性が、理想的な特性に近いものが得られるようになった。BSCCOジョセフソン接合は、本質的に、絶縁層が間に入る型の接合(SIS接合)であるが、従来作製していた接合と、希塩酸浸漬により作製した接合の特性比較から、スパッタエッチング時の熱のダメージは、絶縁層部分に欠陥を作ることがわかった。ミキシング素子としてのYBCOジョセフソン接合に関しては、接合の作製プロセスの確立までは至っている。接合形状やプロセスの条件などによる接合特性の最適化を行っていたが、YBCO成膜に使用しているYAGレーザーの共振器におけるミラーの劣化のためにレーザーのパワー低下が起こり、YBCO薄膜作製に不具合が生じた。平成29年度に、他の予算を工面して、YAGレーザーのメンテナンスを行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
テラヘルツ発振器としてのBSCCOのジョセフソン接合の作製法に関しては、プロセスはほぼ確定したので、接合数の制御を行う。接合数は電磁波発振時におけるテラヘルツ波の出力に関わるために、その取り組みは非常に重要である。また、接合自身は、単結晶から作製される縦型の積層型構造をなすが、それ自身が端部開放の共振器として働くために、接合自身のサイズをテラヘルツ波の波長の1/2になるように接合作製を行う。テラヘルツ波に対応する波長とするため、接合の寸法は、数100マイクロメータとしなければならないので、そのような大きなIJJ素子を均一に作製するための素子作製プロセスの最適化を進める。 テラヘルツミキシング素子としてのYBCOジョセフソン接合の作製法に関しては、YAGレーザーのメンテナンス後にプロセスを確立し、接合自身の特性評価を進めながら、テラヘルツ波信号の受信のため、薄膜アンテナ付きジョセフソン接合の作製を目指してアンテナ構造の設計を行う。共同研究者(川上)が、テラヘツ帯のアンテナの設計を行う。また、共同研究者(武田)が外部回路へIF出力を効率よく取り出すため、伝送線路と素子のインピーダンスマッチングの設計を行う。 BSCCOのIJJ接合からの電磁波放射のYBCO検出器による検出を行う。検出器としてのYBCOジョセフソン接合と発振器としてのBSCCOジョセフソン接合を冷凍機内に実装し、IJJ素子からの放射をYBCO検出器で直接受信する実験を開始する。検出器と発振器をそれぞれ独立に動作させるため、独立の電圧バイアスを行う。YBCO検出器の応答から発振器の周波数やその発振線幅評価を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
BSCCOから放射されるテラヘルツ波放射を簡易的に検出する目的で、情報通信研究機構において、ボロメータを作製する予定を進めていたが、ボロメータとして使用する材料の選定が遅れて、一部の予算執行が遅れた。
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次年度使用額の使用計画 |
テラヘルツ検出用ボロメータを作製するために、BiとNiの蒸着材料の購入を行う。
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