研究課題/領域番号 |
16K06293
|
研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
大森 達也 千葉大学, 大学院工学研究科, 准教授 (60302527)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 弾性表面波 / 非線形 / 可視化 / 高周波素子 |
研究実績の概要 |
本研究は高周波帯弾性波素子における非線形応答の発生や伝搬の様子を可視化する事で、直感的に理解し、その発生メカニズムの解明や、抑圧を中心とする制御方法を検討することを目的としている。この研究目的に際して、本年度は以下に示す2点について重点的に検討をおこなった。 まず、第1点目として弾性波素子において発生している複素非線形応答を電気的に測定することで、周波数依存性や信号レベルを詳細に検討し、可視化する際に必要となる光学系の感度や信号処理部での増幅度を決定する指針とすることを考えた。この評価に当たっては、800MHz帯における弾性表面波共振子を被測定素子として、別目的で使用しているクロスドメインアナライザを短期借用して行った。この結果、二次の非線形応答について、測定限界までのマージンが小さいものの振幅と位相を検出することに成功し、他所での測定結果と比較することにより測定結果の妥当性を確認した。ただし、出力レベルが予想よりも低いために安定した測定の為には、高利得低雑音増幅器を併用するなどの対策を検討すべきであるとの結論を得た。 次に、可視化装置の自動運転について詳細な検討を行った。非線形応答を測定する場合、検出系の時定数を長く取ることで高SNR化を図る必要があるが、これを実用的に行う場合、発振機などを含む測定系の制御やデータ収集を自動的に行うことが必須である。これを実現にするために、自動制御プログラムを新たに作成し既存の弾性振動可視化装置に付加した。この結果、ほぼ完全な自動運転が可能となり、副次的な成果として、周波数掃引機能の実現や得られた結果の動画による表示等が可能となった。 2017年度はこれらで得られた知見を元に、当初の目的である非線形応答の可視化を達成する予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず、クロスドメインアナライザを用いて800MHz帯弾性表面波共振子が発生する2次の非線形応答および、二周波数信号入力時における混変調信号の振幅と位相を測定する基礎的実験を行った。この結果、非線形応答は非常に小さいものの、クロスドメインアナライザで振幅および位相を測定することは可能であることが確認された。また同一サンプルを別測定した結果と比較することで、測定結果の妥当性を確認することができた。ただし信号レベルが非常に小さいため、光学系を介しての測定にあたっては、さらに高感度・低雑音化が必要であり、このための方策として、素子に投入する電力の最適化や、低雑音増幅器の併用が有用であることを示した。 次に、既存の弾性振動可視化装置に対する自動運転機能付加を行った。前述した通り、非線形応答の可視化は極めて小さな信号レベルの検出が必須となるため、検出装置の時定数を長くするなどの高SNR化が必要となる。このため、実用的測定の為には、スキャン制御やデータ取得を自動化し、測定中における人の介在を排除することが必要となる。これに対し、2016年度は可視化装置の運転を自動化するソフトウェアを構築し実装した。この検討の副次的成果として、駆動周波数を連続的に走査しながら弾性波動伝搬の様子を観察し、得られた結果を動画表示することに成功した。振幅・位相・波数空間像の周波数依存性を示す動画表示は本研究者の知る限り世界でも類が無く大きなインパクトを与えるものと考えられる。 なお、2016年度における以上二点の主な研究成果は2017年度に米国で開催される超音波国際会議における講演として応募しており、採択された際には本研究課題における成果の一部として公表する予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
2016年度で得られた検討結果をふまえて、非線形振動の振舞いを捕らえる可視化装置の構築を行う。まず、非線形応答検出の為にクロスドメインアナライザの組み込みを図り、従来のロックインアンプで測定した場合との測定結果の差異について比較を行う。この時に十分な検出感度が得られるかなどの点検と共に、位相検出用の参照信号が漏洩することによる測定結果への影響等についても詳細な調整を行うことを予定している。また、測定対象を二次の非線形性のみではなく、三次の非線形性による混変調応答の観察も可能としたいと考えている。具体的には二周波数同時入力をするための信号入力系と参照信号合成系の構築により実現を図る。特に、位相を測定する上で重要となる参照信号の合成方法については、ミキサによる位相回転量を考慮するなどの方策を行う予定である。 一方で、2016年度に引き続き観察によって得られた可視化画像のより利用しやすく理解しやすい表示方法や、実用化に向けた、操作性の改善等についても検討を行う予定である。可視化像の動画化については高い評価を得ているために、これを利用することで弾性波動伝搬や散乱の深いレベルでの理解を促す方法などを検討していきたいと考えている。 これらの検討により得られた知見は、国内外での学会誌への論文投稿、国際会議での講演等により、暫時公表していく予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当該年度に購入を予定していたクロスドメインアナライザおよび被測定デバイスを短期無償借用できたため、これを利用して、事前に測定系の構築に関する精査と改良を行うことが可能であったことにある。また、当初予定していなかった教育業務遂行の都合により、海外出張を断念したため、出張旅費が未使用となった。なお、次年度以降の無償使用は不透明なため、本研究費による購入を行うことが必要となる。
|
次年度使用額の使用計画 |
前年度購入予定であったクロスドメインアナライザの購入および、被測定デバイスの作製費用が別途必要となるため、これに充てることを計画している。
|