研究課題/領域番号 |
16K06294
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
太田 泰友 東京大学, ナノ量子情報エレクトロニクス研究機構, 特任准教授 (90624528)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 量子光学 / 光集積回路 / ハイブリッド集積技術 / フォトニック結晶 / 量子ドット |
研究実績の概要 |
本研究では、量子ドット単一光子源を中心とする量子光学素子の半導体チップ上への自在な集積に向け、高精度転写プリント法による集積手法の開発を進めている。昨年度は、基礎的な電磁界設計や作製技術の立ち上げを進め、転写プリントした量子ドットからの単一光子発生およびその導波路伝搬の観測に成功した。 今年度は、さらなる技術開発を進め多くの成果を得た。以下に主要なものを列挙する。 (1)単一光子源の複数集積:大規模量子光回路実現のためには、互いに可干渉な単一光子源の複数集積が必要となる。まずその原理実証として、単一の光導波路に波長の異なる量子ドット単一光子源を2つ近接して集積することを目指した。導波路および光源を目的に合わせて設計し、光源を順次転写プリントすることで試料を作製した。その後光学特性評価を進め、双方の量子ドット光源において、Purcell効果によって増強された単一光子発生を観測した。またその導波路伝搬も顕微分光イメージングなどによって確認した。 (2)波長微調用ヒーターの作製:量子ドットにはその発光波長に不均一性があるため、チップ上量子干渉を実現するためには、発光波長の調整機構が必要となる。実験の簡便さを考慮し、まず光吸収によるヒーターを光源へ集積することを目指した。作製手法として、転写プリントした単一光子源の周辺部に、重ねて金属蒸着した半導体スラブを転写する手法を考案し、実施した。スラブを重ねた転写に成功しており、今後ヒーターとしての動作が期待される。 (3)転写プリントによる半導体光ナノ構造の作製:転写プリント法による自在な構造作製手法を応用することで、平坦金属上プラズモニックリング共振器の実現に成功した。また、そこに埋め込んだ量子ドットからの単一プラズモン生成を実証した。また、転写プリント法によって複数枚半導体プレートを積層することで、3次元フォトニック結晶の実現にも成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
量子ドット単一光子源の導波路への複数集積に成功するとともに、多光子量子干渉の実証に向けた波長制御技術にも一定の方向を見出すことに成功した。また、構築した技術を応用しつつ、より発展的な研究に取り組み成果をあげることができた。
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今後の研究の推進方策 |
(I)ナノ精度転写プリント法の開拓:自作した光導波路上へ量子ドット単一光子源を転写プリントする際は、誤差約100nmの高い精度を再現性よく実現できることが分かった。今後、この技術をより洗練していくとともに、プロセスファウンドリを利用し作製した光導波路への転写技術の構築を加速する。ファウンドリチップには、導波路上に厚いガラスクラッドが存在する。そこで、効率的な単一光子結合を目的として、ガラス厚の制御およびその表面の平坦化に取り組む。さらには、転写プリントを用いて、その他の光ナノ構造をチップ上へ集積する技術についても検討を行う。 (II)高性能導波路上単一光子源技術の開発:本研究では、量子ドットから発生した単一光子を、フォトニック結晶ナノ共振器を介して導波路へ結合している。その結合効率は、転写プリントの精度およびナノ共振器の品質(Q値)によって主に決定される。転写プリントの精度に関しては、すでに100nm程度を実現しており、光学結合効率の劣化には大きく影響しないことを電磁界計算により確認済みである。一方、共振器のQ値は導波路と結合していない状態で2万程度であり、所属研究室において5万程度が同様の共振器で実現されている現状を鑑みると十分とは言えない。そこで今後、共振器Q値の改善に向けて半導体ナノ加工条件をさらに精緻に制御することを目指すとともに、加工表面の劣化を防ぐために、グローブボックス中に転写装置を設置し、高純度不活性ガス中で転写プリントを実施することを検討する。 (III)チップ上単一光子間干渉の実証:ビームスプリッタから分離した複数の光導波路を作製し、その上に複数の単一光子源を集積することで、多光子量子干渉の実証を目指す。光源波長の微調整には光励起によるヒーターを使用する。
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次年度使用額が生じた理由 |
半導体加工装置のトラブルなどによって、試料作製のプロセス回数および加工用基板の消費を減らさざるを得なかったため。余剰分は、作製プロセスの加速等によって来年度以降に使用する。
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