研究課題/領域番号 |
16K06295
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
庄司 雄哉 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 准教授 (00447541)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 光メモリ / 光磁気記録 |
研究実績の概要 |
提案する磁性光メモリは光信号に対して光磁気記録により1ビットずつデータを記憶・再生する素子である。特に導波路を伝搬する光パルスによって磁性体を加熱し磁化反転を実現することがキーとなる。 今年度、光伝搬シミュレーションと数値解析による光吸収効率の計算を行い、リング一周当たりの吸収は小さくても共振の強さ(Q値)を高めることで周回数が増加するため、全体としての吸収効率を高める設計をした。バスラインとリング間ギャップの設計や金属の領域長の変化させたリング共振器を製作し、効率改善を実験的に検討した。評価方法としては、外部光源からの連続光を素子に入力し、入力光のパワーに依存したリング共振器の共振特性の変化を観測することで、シリコン導波路に誘起された熱光学効果から金属部の温度上昇量を見積もることができる。リング共振器における曲げ損失の低減や金属部のクラッド層厚の調整により、金属への効率的な光吸収が実現され、最大で200℃程度の温度上昇を達成した。この温度は、磁性金属を用いて吸収層を形成した場合に発熱の有無による磁化反転を制御することが可能な温度である。 また、パルス整形した入力光を用いて金属装荷リング共振器の透過率の時間応答を測定した。上記と同じ原理で温度上昇により共振特性が変化し、入力光の波長を元の共振特性のどの波長に設定しておくかによって、強度変化の方向を規定できる。一方、パルス光の強度が高くなると非線形光学効果によりシリコン導波路中にキャリアが誘起され、自由キャリア吸収を引き起こす。そこで、温度上昇による光の強度変化をプラスに設定し、非線形光学効果による強度の減衰と区別することで、温度上昇のみの強度変化やその時定数を評価できることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本光メモリの開発では、再生動作と記録動作の実証を同時並行で進めている。 再生動作の課題はCoFe2O4膜の開発であり、これに関しては昨年度進展が得られず計画の遅延が生じている。原因として、他機関からの報告では成膜中の基板温度を300~400℃に加熱する条件で良好なCoFe2O4膜が得られているが、これまで用いてきたスパッタ成膜装置では基板加熱機構が搭載されていないため、常温での成膜を行っている点が挙げられる。この点については、H29年12月に新しいスパッタ装置を導入し基板加熱を行った実験を始めている。現在条件出しの途中ではあるが、結晶化したCoFe2O4膜の観測結果が出始めている。 記録動作においては、着実な進展が得られている。リング共振器上に金属を装荷した構造の光学特性を測定することで、観測された波長シフトからSi導波路の熱光学効果による温度上昇が求まり、そこから金属部の加熱温度が評価できる。H28年度、導波路中の1mW程度の伝搬光によって金属部で100℃程度の温度上昇を実現していたが、H29年度には9.に記す通り200℃の温度上昇を達成した。磁化反転に必要な温度としては十分適用可能な範囲であり、磁性金属を用いた次のステップへと研究を進めている。 このように、課題によって一長一短な進捗状況ではあるが、本提案の独創的で挑戦的な面は後者の記録動作の実証にあるため、その進展を鑑みて総合評価を「(2)おおむね順調に進展している」とした。
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今後の研究の推進方策 |
CoFe2O4膜の開発における課題は基板加熱を用いた成膜であり、H29年12月に新規導入したスパッタ装置により検討を進めている。新しい成膜装置には基板加熱機構と成膜中の結晶性評価機構(RHEED)を搭載している。この新装置を用いてMgO層の配向性制御を確実に行うことにより課題解決を試みる。所望のMgO層の配向面が得られれば、その格子定数とマッチしたCoFe2O4膜の配向面が選択的に形成されて成膜できることが知られており、単一配向CoFe2O4膜をSi導波路上に形成することで低損失な光再生動作の実現が期待される。損失の評価としては、シリコン導波路の上部に部分的にCoFe2O4膜を堆積し、その伝搬長を変化させて場合の透過率の変化から単位長さ当たりの材料吸収を見積もる。 光による加熱方式の開発においては、200℃程度の温度上昇が達成されたため、H30年度は磁性金属膜を光加熱しながらの磁場印加によって磁化反転の実証を検討する予定である。磁化反転の判定には、反射光の磁気カー効果を利用した偏光顕微鏡により、可視的に観測することができる。加熱温度が磁性金属のキュリー温度に達しない場合でも、外部磁場強度やベースの基板温度を適切に制御することで、光誘起の熱アシスト磁化反転を達成することで、本光メモリの有効性を示す。
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