我々はこれまでに,金ストライプ構造を形成したテンプレート上に静電スプレー堆積(ESD)法を用いて有機半導体を堆積すると,有機分子の配列が規則正しく制御されて成長するグラフォエピタキシー現象を発見している.そこで本課題では,有機半導体結晶のπスタック方向を人為的に制御する有機エピタキシーにより高い移動度をもつ有機トランジスタ(OFET)を実現することを目的とした.しかし,ゲート絶縁膜の堆積後では有機分子の配列を制御できないため,この方法を用いて有機半導体活性層の分子配向を制御したOFETを作製するのは困難であることがわかった. そこで本研究では,電気的特性に優れた低分子半導体と絶縁性ポリマーをブレンドして成膜する方法に着目した.H28年度の研究では,TIPS pentacene/PMMAのブレンド膜をESD法により堆積し,垂直方向相分離により低分子半導体活性層とゲート絶縁膜のスタック構造が自己組織的に形成され,OFET動作することを実証した.しかし,相分離は溶媒蒸発の過程で進行するため,蒸発時間の短いESDプロセスでは相分離が不十分となり,電荷移動特性が低下することがわかった.そこでH29年度の研究では,ポリマーブレンドを高速で相分離させるために,絶縁性ポリマーの検討を行った結果,PMMAをPSに変更することで堆積直後に分子レベルで急峻な相分離界面が形成され,OFET特性を大幅に向上させることに成功した.また,高アスペクト比のストライプ状微細マスクを用いてブレンド膜を堆積することで,液滴の蒸発方向が一様となり,結晶成長方向を制御できることを明らかにした. この結果を受けてH30年度の研究では,核形成の位置をフッ素系ポリマーを用いた親液性/撥液性処理により制御することで,分子配向のそろった結晶を形成し,OFETを作製して優れた電気的特性を得ることに成功した.
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