研究課題/領域番号 |
16K06309
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研究機関 | 高知工科大学 |
研究代表者 |
古田 守 高知工科大学, 環境理工学群, 教授 (20412439)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 酸化物半導体 / 薄膜トランジスタ / イメージセンサ / 低温プロセス / フレキシブルデバイス / 信頼性 |
研究実績の概要 |
積層型イメージセンサーの実現には、有機光電変換膜とIn-Ga-Zn-O薄膜トランジスタ(IGZO TFT)透明信号読み出し回路からなるセルを三層積層する必要がある。有機光電変換膜の性能を維持しつつ多層積層セルを実現するには、IGZO透明信号読み出し回路を有機光電変換膜の耐熱温度(≦150℃)以下で作製する必要がある。IGZOはスパッタ法にて室温で製膜可能であり、低温形成TFTのチャネル材料として期待されている。しかしながら、スパッタ成膜中に導入される欠陥の修復に350℃程度の熱処理が必要である。今年度はIGZOスパッタ膜中の欠陥修復プロセスの低温化を重点的に検討し、欠陥修復プロセスがTFT特性・信頼性に及ぼす影響に関しても検討を行った。 これまでの研究からもIGZO膜中に存在し電気的に活性な主たる欠陥は酸素欠損であることが知られており、成膜中の酸化反応を促進させることで欠陥低減を行う試みがなされてきた。まず先行研究同様に、アルゴンと酸素の混合ガスの酸素分圧制御の結果、酸素欠損の低減に伴うキャリア濃度低減は得られたものの、良好な特性、特にTFT特性のヒステリシス低減に必要な熱処理温度に変化は見られなかった。この結果を受け、これまでとは異なる添加ガスの導入を検討した。知的財産権申請の関係上詳細は明らかにできないものの、添加ガス導入によりこれまで300℃以上が必要であった熱処理温度を150℃に低減できることを見いだした。今回開発した作製プロセスにてIGZO TFTを作製したところ、熱処理温度150℃において、TFT特性のヒステリシスを従来の11Vから0.6Vまで劇的に低減できることを確認した。本手法は低温プロセスIGZO TFTにおいて大きなインパクトを与えるものと考えており、重要な成果である。また初期的な評価において、バイアス信頼性改善効果も確認できている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度計画のひとつとして二層積層素子の原理実証があげられた。これは下層の光電変換効率に及ぼすTFT作製プロセスの影響を見極めることが主目的であり、これに関しては協力研究機関にて動作実証が完了している。 このため我々の研究グループは、低温(≦150℃)プロセスによるIGZO TFTの特性および信頼性制御を重点に研究を推進した。これまではIGZO薄膜の主たる欠陥である酸素欠損補償を目的に酸化促進処理が多く研究されてきた。代表的なものとして水蒸気雰囲気での熱処理があげられるが、特性や信頼性改善効果は大きいものの、低温化への効果は充分でなく、300~400℃程度の熱処理が必要である。近年、紫外光照射下における熱処理、高圧ガスアニール、電界印加アニール、がIGZO TFTの低温活性化に有効であると報告されている。我々はこれまで報告されていない新たな手法により、最高温度150℃にてIGZO薄膜中の欠陥を大幅に低減した高品質IGZO薄膜の形成に成功した。本手法は、初期膜に意図的に酸素欠損とその補償元素を導入したのち低温アニールを行うことで、構造緩和と欠陥補償を同時に実現するものである。本手法を用いて最高プロセス温度150℃で作製したTFTのヒステリシスを従来スパッタ法による11Vから0.6Vにまで劇的に低減できることを示した。 以上のように、今年度の研究成果は独自性も有し、かつ今回の提案のみならずフレキシブルデバイス全般に大きなインパクトを与えうる技術であると考えており、“計画以上に進展している”と判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は三層積層イメージセンサーの動作原理実証と今後の高画素化に向けた微細素子の課題抽出を実施する計画である。低温プロセスによるIGZO TFTの特性向上に関しては今年度大きな進捗を得たため、高輝度放射光によるX線光電子分光を用いた欠陥低減メカニズムに関する検討を進める計画である。また添加ガス量の最適化を図りつつ、更なる特性向上を図る。 一方で、電気的ストレス信頼性の現状は目標値ギリギリであり、信頼性劣化要因解明と対策に更に注力する計画である。TFTは各種薄膜の積層構造にて作製されるため、その信頼性も隣接する薄膜やその界面の影響を強く受け、劣化要因の特定が難しい。代表的な劣化メカニズムとして、1)IGZO薄膜中の欠陥準位、2)ゲート絶縁膜とIGZO界面における電子トラップ、3)低温形成したゲート絶縁膜中での電子トラップ、4)大気成分の吸脱着によるIGZO電子密度の変化、等があげられるが、TFTの信頼性試験だけでは要因分離が難しい。信頼性劣化メカニズムの特定に向け、要因分離のための実験手法を開発し、シンプルな系での実験を通じて劣化メカニズムの解明と対策に繋げていく。 また、高品質ゲート絶縁膜の低温形成もTFT特性・信頼性に重要である。初年度は有機材料からなるゲート絶縁膜を用いることで最高プロセス温度150℃を実現したが、大気安定性や信頼性に課題を残している。このため、陽極酸化による高品質ゲート絶縁膜の低温形成に関する研究もスタートさせ、絶縁膜による信頼性影響を明らかにし、目標達成に向けた取り組みを加速する。 加えて、最終年度はこれまでの科研費成果の論文化、国際会議での発表を通じた若手人材育成、等の成果公表にも積極的に取り組む。
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