研究課題/領域番号 |
16K06310
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研究機関 | 北海道科学大学 |
研究代表者 |
三橋 龍一 北海道科学大学, 工学部, 教授 (90254698)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 山岳遭難者 / 探索装置 / 二眼式カメラ / 正規化植生指数 / 登山遭難者 / 山菜取り遭難者 / 電界強度 / 動作検出 |
研究実績の概要 |
平成28年度の研究実施計画に従って、まずは赤色と近赤外の二眼式カメラの試作に成功し、試験的に両方の波長の光を用いて正規化植生指数(NDVI:Normalized Difference Vegetation Index)の画像化実験を行った。NDVIは水稲のたんぱく質量などの測定など、様々な植物のパラメータに関する測定実験が行われている。試作したカメラで得られた画像データでは、葉緑素の測定に適した波長域を測定することが可能であった。そのカメラを安価で一般市販されているマルチコプターに搭載して、1本の木の周りから撮影してNDVI画像をステッチして三次元画像化することにより、木葉の葉緑素量(活性度)を3D画像として任意の方向から確認ことが可能であることを明らかにした。この研究成果を論文にまとめて電気学会に投稿したところ採択され、電気学会論文誌Cに掲載された。 また、平成28年度の研究目的を十分に達成したため、遭難者に8の字指向性を持ったアンテナを搭載した発信機を所持させたときの探索の可能性を検討するために、人工衛星のダイポールアンテナから発せられる電波の電界強度の変化を測定する実験も行った。その結果、アンテナのスピン速度を測定することが可能であるを明らかにした。このことは、葉が生い茂った木の下にいて、遠赤外でも検出が不可能である遭難者が移動中(歩行などをする体力が残っている)か身動きができない状態なのかを判別する可能性があることを明らかにしたことになった。この研究成果を論文にまとめて電気学会に投稿したところ採択され、電気学会論文誌Cに掲載された。 平成28年度の研究実績は、当初の研究実施計画の目標を大きく上回ったものであったといえる。さらに、登山遭難者より深刻な山菜取り遭難者の捜索の研究も行い、実験で有効性の高い方法を電子情報通信学会総合大会等で発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成28年度の研究実施計画で主たる目標としていた、赤色と近赤外を同時に撮影することが可能な二眼式カメラの試作に成功した。この試作したカメラの性能を確認するため、二次元画像で正規化植生指数(NDVI:Normalized Difference Vegetation Index)の測定に成功し、それを樹木に適用した。さらにパノラマ処理を行い、三次元画像化することにより、自由な視点から樹木の詳細な活性度を画像として確認することが可能であることを明らかにすることができた。この研究成果は電気学会の論文として採択され、既に電気学会論文誌Cに掲載されている。 さらに、平成28年度の研究実施計画にはなかったが、木葉が生い茂る森林地帯にいる人体は遠赤外線を使用しても検出が不可能であることを実験で確認した。そこで、遭難者が指向性(8の字指向性)の発信機(ビーコン)を所持していることを想定して、遭難者が活動しているか身動きしていない状態なのかを捜索側が探知できるかを確認するため、ダイポールアンテナを送信に使用している人工衛星の電界強度の変化を測定することにより、スピン状態を確認することが可能であることを理論のみならず、実験データを使用して明らかにした。この研究成果も電気学会の論文として採択され、既に電気学会論文誌Cに掲載されている。 道警や山岳連盟の遭難者捜索の担当者に取材を行い、報道等では知りえない遭難者の捜索に関する情報を得ることができた。また、登山遭難者に重点を置いて始めた研究であったが、関係者からは山菜取り遭難者の方がより深刻であることを知り、その捜索のための基礎実験も行った。 さらに、近年では積雪期はバックカントリーの遭難者が急増しており、本研究の成果が新たな捜索に適応可能であるかの検討も始めている。 よって、当初の研究計画を大きく上回って研究は進捗しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度の研究により、現状では技術的な側面からのみでの遭難者の捜索は極めて困難であることが明らかになってきた。発想をある程度転換し、遭難者自身から捜索活動を付近で行っていることを察知したときには、通常所持しているものを使用して適切な方法でシグナルを捜索者に送ることにより、発見する可能性が飛躍的に高まることも平成28年度の研究で明らかになった。捜索側だけではなく、遭難者側と双方の努力による効率的な探索方法の検討も積極的に行う。通常のカメラで空撮で探索実験を行ったところ、日中には遭難者から自然界に存在しない色の布等でのシグナルは有効性が高いことも明らかになった。 今後は、高解像度二眼式ハイブリッドカメラの完成度を高めるとともに軽量化を行い、安価に一般市販されているマルチコプターへの搭載が可能な小型軽量な装置と、無線画像伝送装置の開発と実験を行う。マルチコプターの飛行は航空法により規制され、通常は飛行可能である人口集中地区外などでも日没後に実験を行うことは違法である。しかし、国土交通省の承認を受けることにより、夜間の実験も可能となる。承認の申請時には、マルチコプターの飛行に関する知識が十分にあることを客観的に証明することが求められるようになり、国交省は民間試験を活用することを公式に発表している。そこで、研究代表者は民間試験では実質上最も権威があるとされているドローン検定1級の試験を5月に受験して、国交省の夜間飛行の承認などを受ける予定である。これによって実験の幅が広がり、今まで情報が少なかった日没後の状況を把握する実験を進める。 また、ハイブリッド気球の研究もすでに平成28年度から開始しており、容易に離陸するところまで実験で確認している。しかし、機体が小型であることから飛行安定性が悪いという問題があり、飛行特性を計測する軽量な装置の試作も行っていく。
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