研究課題/領域番号 |
16K06316
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
藤代 博記 東京理科大学, 基礎工学部電子応用工学科, 教授 (60339132)
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研究分担者 |
町田 龍人 東京理科大学, 基礎工学部電子応用工学科, 助教 (50806560)
藤川 紗千恵 東京電機大学, 工学部, 助教 (90550327)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | テラヘルツ領域 / 高電子移動度トランジスタ / InGaSb / 電子有効質量 / 格子歪 / 電子移動度 / 遮断周波数 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、GaInSbを用いた電子有効質量me*の最適設計により、界面ラフネス散乱の影響を抑えながら高い電子移動度μeと高い電子濃度Neを同時に実現した量子井戸QWを作製し、テラヘルツ領域で動作する極限性能トランジスタを開発することを目的とする。以下に平成29年度の研究実績を示す。 (1) ゲート容量を高めて高い電流駆動能力を得るには、幅の狭いQWにおいて高いμeとNeを実現することが望ましい。そこで量子補正モンテカルロ(QC-MC)シミュレータを用いて、GaxIn1-xSb QW(x=0、0.2、0.4)のμeとNeのQW幅Lw依存性を系統的に解析した。バルクにおいてμeは1/me*、Neは(me*)**3/2に比例するが、QWでは量子効果の発現によりLwを狭めるほどμeとNeが減少した。減少量はme*が大きいほど小さくなり、また界面ラフネス散乱の影響も弱まるために、結果としてGa組成比xが大きいほどチャネル抵抗Rsが低くなった。fTのピーク値はいずれの構造においても約1.3THz(Lw=15nm、Lg=30nm)と見積もられた。しかしながら寄生部分の大きい実デバイスではRsの影響が大きいために、xを高めてme*を大きくした方が有利となる可能性があることが分かった。 (2) 歪みAl0.40In0.60Sb/Al0.30In0.70Sbステップバッファ層により、QW深さを保ちながらチャネルに加わる圧縮歪みを低減させ、高いμeとNeを実現することを試みた。この歪みステップバッファ層上に作製したGa0.20In0.80Sb QWにおいて、さらにバッファ層にSLSを導入することより、μe=16,190cm2/Vs、 Ne=2.04×1012cm-2を得た。これらの値はそれぞれInSb QWの91%、186%であった。結果としてRsは57%に低減した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は、以下の4項目の研究を目的とした。 (1)ステップバッファ層を用いた歪み制御によりInGaSb QWのμeとNeをさらに増加させるための材料、構造設計を行う。(2)InGaSb QWの雑音特性を理論的に解析し、最適な材料、構造を明らかにする。(3)グレーデッドバッファ層、SLS層、およびステップバッファ層の導入により結晶品質のさらなる向上を実現し、InGaSb QWのμeとNeの向上を図る。(4)2段リセスプロセスを用いてInGaSb HEMTを作製し、DC、RF特性、および雑音特性を評価する。 (1)、(3)については、歪みAl0.40In0.60Sb/Al0.30In0.70Sbステップバッファ層上のGa0.20In0.80Sb QWを作製し、さらにバッファ層にSLSを導入することより、それぞれInSb QWの値の91%、186%に相当するμe=16,190cm2/Vs、 Ne=2.04×1012cm-2の特性を得た。これによりチャネル抵抗RsをInSb QWの57%に低減することができた。 (2)については、me*が小さいほど顕著となるバリスティック伝導とそれに伴う実効Lgの延長および界面ラフネス散乱に着目し、これらが雑音特性におよぼす影響について、初年度に引き続き解析を行った。 (4)については、オーミック電極間の距離を短縮してゲート電極脇の寄生抵抗を低減するために、2層レジストを用いた新プロセスの開発を行い、InSb HEMTでその効果を検証した。次年度にInGaSb HEMTの試作を行い特性を評価する。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、オーミック電極間短縮プロセスおよび2段リセスプロセスを用いてInGaSb HEMTの試作を行い、DC、RF特性、および雑音特性を評価することにより、THzトランジスタとしての性能を明らかにする。以下に計画の詳細を示す。 (1) 低温初期成長層、SLS層、およびステップバッファ層の改良により結晶品質をさらに向上させ、InGaSb QWのμeとNeのさらなる向上を実現する。 (2) ステップバッファ層を用いた歪制御と材料・構造設計によりInGaSb QWのμeとNeのさらなる向上を実現する。 (3) (1)、(2)の成果であるInGaSb QWウエハを用いて、オーミック電極間短縮プロセスおよび2段リセスプロセスによりInGaSb HEMTを作製し、DC、RF特性、および雑音特性を評価する。 (4) me*の小さいInGaSbチャネルに顕著であるバリスティック伝導とそれに伴う実効Lgの延長および界面ラフネス散乱の雑音特性におよぼす影響について、継続して解析を行い、ナローギャップ半導体を用いたナノトランジスタの雑音に関する包括的な理論を構築する。
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次年度使用額が生じた理由 |
予算の執行を行うにあたり、端数が生じた。次年度において併せて執行する。
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