研究課題/領域番号 |
16K06321
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研究機関 | 新潟工科大学 |
研究代表者 |
金井 靖 新潟工科大学, 工学部, 教授 (00251786)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 高周波アシスト磁気記録 / ライトヘッド / マイクロマグネティック解析 / スピントルク発振器 |
研究実績の概要 |
記録ヘッドは高い線記録密度を得るために,発生する磁界の勾配を高く保たねばならない.そのため,ギャップを狭めることは必須であり,最新の高周波アシスト用ではない市販品はギャップ長が20 nm以下である. これまでのモデル計算ではギャップ長を30 nmとしていたが高周波アシスト用記録ヘッドも20 nm以下として研究を進めた.また高トラック密度化のためサイドシールドも配した(成果).一方,狭いギャップにより,記録ヘッド―スピントルク発振素子(spin torque oscillator: STO)の相互作用は強くなり,STOは発振し難くい.上記の観点から,厚い高周波発振層(field generation layer: FGL)や三層構造のSTOよりも構造が簡単な二層の素子が好ましい.このうち,反射のスピントルクを利用したSTOはスピン注入層を厚くせねばならないため透過のスピントルクを利用したSTOが望ましい. 面積の大きなSTOは安定な発振を得にくい.一方,たとえば20nm × 20 nm × 10 nmのFGLは安定な回転を得やすい(成果).面積の小さなSTOは発振磁界強度の面で不利であると考えられてきたが,FGLの面積による発振磁界の強度に顕著な差異は見られないことを明らかにした(成果).これは磁界強度が磁化から観測点までの距離の2乗に反比例するためであり,少なくともFGLの面積に比例して発振磁界強度が低下することはない. 記録ヘッドは,強い磁界を発生させるために,主磁極にテーパーがある.そのため,STOは媒体面に対して斜めの構造(斜めSTO)になることは避けられない.斜めSTOのトレーリングシールド面(ギャップ側)を主磁極面(ギャップ側)よりも傾け,STOをシールド面と同じ角度だけ傾けた構造は,矩形である限り,安定に発振することを見出した(成果).
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)ギャップ長を狭くする,サイドシールドを配するなど,ライトヘッドモデルの構造を市販品に近付けて検討した.そのため,STOが安定に発振する条件が大きく変わり,最初からデータを積み重ねることにした.(2)計画を立てた段階では強い高周波磁界を得るために,面積の大きなSTOを使わねばならないとの常識にとらわれていたが,面積は記録位置における高周波磁界の強度に大きな影響を与えないことを明らかにした.さらに,面積の小さなSTOは低い印加電流密度でも安定に発振することを見出した.(3)斜めギャップ中に,ギャップの傾きとは異なる角度のSTOを挿入し,安定して発振することを見出した.このときSTOの形状は四角柱ではなく,素子中を流れる電流密度も一定ではない.今後はこの点を考慮せねばならない.(4)当初は予定していなかった3次元記録に対しての可能性を見出した.その結果,面記録密度は大幅に向上すると思われる.(5)STO単独の素子,記録ヘッドのギャップに挿入したSTO(2層媒体の軟磁性裏打ち層を考慮)した解析シミュレーションに加え,媒体記録層を考慮したモデル計算を開始した.平成30年度中には十分なデータが得られると考える.(6)ソフトウェアの開発は断念した.自作ソフトウェアはデータ作成,結果表示などの使い勝手が悪く,モデル計算の効率が非常に悪かった.また,直方体と立方体しか使えないため複雑な形状への適応性が悪く,平成29年度はもっぱら市販ソフトを用いて解析を行った.その結果,多くの成果を論文あるいは口頭にて発表することができた. 以上のように,予定以上に進んだ内容もあれば,予定よりも遅れている項目や断念した課題もあり,総合的に判断して概ね順調に推移していると判断する.
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は,ギャップ長を狭くする,サイドシールドを配するなど,ライトヘッドモデルの構造を市販品に近付けて検討した.そのため,STOが安定に発振する条件が大きく変わり,最初からデータを積み重ねる必要に迫られた.これまでに斜めギャップ中の斜めSTO(FGLが媒体摺動面(air bearing surface: ABS)に露出しない構造)は安定に発振することが分かった.しかしながら,この構造はFGLと記録層の距離が大きくなり,高周波磁界強度の面で好ましくない. 平成30年度は強い高周波磁界を得るため,斜めSTOのFGLがABSに露出する構造を検討する.この構造のSTOは断面がもはや矩形ではなく,台形であり,矩形STOと比べると体積が小さい.今年度の結果からSTO体積により高周波磁界が大幅に低下するとは思わないが,定量的に議論する.また,この構造は電流の素子の両端に電圧を加えると,電極の面積が異なるため,素子の中で電流密度が一定ではない.そのため,素子中を電流が不均一に流れるときの影響を調べる. 平成28年度までは,STO素子のみの孤立モデルおよびSTO素子と記録ヘッドの統合モデルを検討し,媒体の記録シミュレーションは切り離して行ってきた.平成29年度はこれらを一括して取り扱い,シミュレーションの近似度合いを上げて,実際に近付ける検討を開始した.計算時間が膨大になったため,得られた計算データが少なく,議論できるほどの結果は得られていない.平成30年度は計算数を増やし,媒体反転とSTO回転の相関をとる.また,STOの回転が媒体の存在により変化するかを検討する.さらに最終年度であるので,媒体計算のデータを積み重ね,申請時の目標としていた 面密度4テラビット/平方インチ,記録周波数2GHzの記録が可能な条件を見出す.
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度に高性能ワークステーションを購入予定であったが、解析計算とデータ整理のための雇用が必要であり、かつ優先順位が高くなった。そのため高性能ワークステーションの購入を中止した。これらの差異により次年度使用額が生じた。 平成30年度は研究成果を国際会議でするなど、着実に予算を執行可能である。
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