研究課題/領域番号 |
16K06322
|
研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
大谷 直毅 同志社大学, 理工学部, 教授 (80359067)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 抗酸化作用 / カロテノイド / 蛍光寿命 / 天然色素 / ほうれん草 / アオダモ |
研究実績の概要 |
植物から抽出したカロテノイド系色素を有機発光ダイオードの発光層に添加すると有機発光ダイオードの動作寿命に改善が見られることが分かったが、これはカロテノイド系色素の持つ抗酸化作用によるものと考えられる。研究代表者のグループでは、ほうれん草から抽出した色素からカラムクロマトグラフィー法により単離精製したβカロテンを用いて、その抗酸化作用を定量的に評価してきた。平成28年度は試料を大気に触れることなく保存しながら蛍光スペクトルの測定が可能となる真空固体ホルダを導入した。 その結果、真空中で光照射がなければ蛍光スペクトルに時間変化はまったくみられないが、大気に触れる条件では、蛍光色素MDMO-PPVに対してβカロテンが少ないとき抗酸化作用による蛍光寿命の改善は見られない。しかし、MDMO-PPVと同等以上の量を添加すると、発光強度が一度増加して一定時間を過ぎると劣化による輝度の低下が確認された。また発光強度の増加に伴い、発光ピークが短波長シフトすることも分かった。このような発光強度の増加と短波長シフトは他の高分子蛍光色素(MEH-PPVなど)でも観測されているが、Alq3などの低分子蛍光色素では観測されないことも分かった。この原因について今後検討していきたい。 またカラムクロマトグラフィー法により同時に抽出されるカロテノイド系色素であるルテインの抗酸化作用も評価した。その結果、βカロテンほどの蛍光寿命の改善はみられなかったが、同様な短波長シフトは観測された。 ほうれん草から抽出される蛍光色素クロロフィルは赤色発光材料であるが、応用を考えたとき三原色の蛍光色素を揃えたい。そこで、アオダモの幹から青色蛍光色素の抽出を試みた。その結果、抽出液に紫外線を照射して青色発光が確認された。ただし、基板上の薄膜形成について検討を行い、純水よりメタノールを使用する方が発光強度に有利であることが分かった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
カラムクロマトグラフィー法による植物色素の単離精製法のノウハウが整理され、とくに精製時の条件比較では大気中で精製を行うとβカロテンの劣化が激しく、一方真空中での精製が劣化を招くことがなく大変有効であることがわかった。さらに、平成28年度に導入した真空対応固体ホルダにより大気に触れることなく蛍光スペクトルの測定を長時間継続できるようになった。したがって、βカロテンの抗酸化作用について定量的な評価を可能とするノウハウが整理された。同時に他のカロテノイド系色素の抽出も可能となった。従来は発光色素として、ほうれん草から同時に単離精製されるクロロフィルaとbを用いていたが、発光強度が小さいために長時間の発光スペクトルの変化の評価が難しかった。そこで市販の蛍光色素MDMO-PPVなどを用いてβカロテンの抗酸化作用の評価を行なった。その結果、発光スペクトルの時間変化に関する大量のデータ収集が可能となった。ただし、発光強度の増加と短波長シフトの原因解明ついては更にデータを集めて詳細な検討が必要であり、その足がかりを探っている段階である。 アオダモを使用した青色蛍光色素の抽出については、溶液状態では十分な強度の青色発光が確認できたが、基板上で成膜した場合には微弱な発光しか確認できなかった。これは現状の方法では色素抽出濃度が低いことを示している。 βカロテンの抗酸化作用に関する研究成果、およびアオダモの青色発光については2017年6月に福井で行われる国際会議EM-NANOにて発表する予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
ほうれん草から抽出したカロテノイド系色素の抗酸化作用の解明のため、発光スペクトルの時間依存性のデータを大量に収集して詳細に解析していきたい。具体的には、MDMO-PPVなどの蛍光色素の発光スペクトルには複数の発光ピークがあり、それがβカロテンの添加量を増やすと発光強度の増大とともに短波長シフトしていく。したがって、複数の発光ピークを分離して解析し、発光の起源を特定した上で発光強度と波長の変化の原因を解明していく予定である。 βカロテン以外のカロテノイド系色素は抽出量が少ないため抗酸化作用に関する大量のデータ収集が難しい。そのため、カラムクロマトグラフィの展開溶媒の条件を変更するか、あるいはβカロテンよりルテインなどが豊富に含まれている植物を使用するかなど、新たな戦略が必要と考えている。 またカロテノイド系色素の物性に精通している外部研究者との共同研究も検討していきたい。 アオダモを使用した青色蛍光色素の抽出については、現状の方法では色素抽出濃度が低いことがわかった。よって単離精製を行い抽出色素の使用量を増やしたうえで定量的な評価を行えるようにしたい。
|