研究課題/領域番号 |
16K06324
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研究機関 | 大阪工業大学 |
研究代表者 |
小寺 正敏 大阪工業大学, 工学部, 教授 (40170279)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 電子ビームリソグラフィ / 帯電現象の解析 / マルチスケール / フォギング電子空間分布測定 / フォギング電子軌道追跡 |
研究実績の概要 |
平成29年度は電子ビームリソグラフィにおける帯電の影響低減のための帯電現象のマルチスケール解析において、我々は(1)フォギング電子電流の空間分布測定による実験値、(2)絶縁物表面への電子ビーム照射に伴う帯電電位分布測定、(3)フォギング電子の軌道追跡のシミュレーション、(4)電子ビーム照射に伴う試料内を走る電子の空間分布の時間的変化のシミュレーションの4種類のアプローチで研究を進めた。 (1)では、プリント基板にドリルで細線を切り抜くことで円環電極を製作した。現在厚銅基板を用いることで電子ビーム照射時の帯電の低減を狙い実験を進めた。本実験を進めるうえで、前年度実施の、SEM試料室内の二次電子検出器前面のシャッターを設置することに加え、試料周りの絶縁物をできるだけ排除することで実験の再現性を確保した。(2)では、静電気力顕微鏡法による試料表面電位分布測定の方法を見直し、電子ビーム照射前に表面電位を測定し、照射後の同位置での表面電位を測定するようにした。これでより信頼性の高い分布を得ることができた。(3)では、フォギング電子軌道の三次元シミュレーションが完成し、電界が印加された状態で試料に到達するフォギング電子がどのような空間分布を示すか実験値によって確認した。また、(4)では、電子ビーム照射時間とともに試料内をまだ走行中に次の電子が入射するパイルアップ現象が起こる様子をシミュレーションによって表現した。試料内部だけの電子軌道のシミュレーションでは、数keVの電子はフェムト秒程度で停止するが、フォギング電子として試料に対向する対物レンズからの電子が試料に到着するのには動作距離が10㎜であってもナノ秒オーダーを要し、ナノアンペアオーダーでは電子ビームの入射時刻とフォギング電子の入射が干渉し、電子のパイルアップによる帯電の可能性を見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
電子ビームリソグラフィにおける帯電の影響低減のための帯電現象のマルチスケール解析において、(1)フォギング電子電流の空間分布測定による実験値、(2)絶縁物表面への電子ビーム照射に伴う帯電電位分布測定、(3)フォギング電子の軌道追跡のシミュレーション、(4)電子ビーム照射に伴う試料内を走る電子の空間分布の時間的変化のシミュレーションについて、平成29年度に予定されていた事項について、研究実績の概要に述べたようにほぼ当初の目的を達成できたため。ただし、さらに大きな帯電電位が測定できる様なシステムの拡張は、現状の300nm厚の絶縁試料では50V以上の帯電が見られないため必要がないことが分かった。
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今後の研究の推進方策 |
(1)フォギング電子電流の空間分布測定による実験値については、昨年度にフォギング電子に干渉する、電子ビーム鏡筒から広く拡散的に漏れているフレア電子の存在を確認した。今後フレア電子の性質について明らかにする。(2)絶縁物表面への電子ビーム照射に伴う帯電電位分布測定においては新たに二次元的な電位分布を測定して電位分布を可視化する。(3)フォギング電子の軌道追跡のシミュレーションは昨年度三次元軌道追跡に成功したのでこのシミュレーションから得られる知見を上記2つの実験に適用する。(4)電子ビーム照射に伴う試料内を走る電子の空間分布の時間的変化のシミュレーションによる解析では、試料内での電子蓄積による帯電というだけでなくフォギング電子とのパイルアップを考慮に入れた帯電プロセスの影響を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
フォギング電子ならびにフレア電子の低減のためには試料と対物レンズ間での電子数増殖を抑える必要がある。電子散乱のシミュレーションの結果では特にビーム照射位置からの半径が小さい所で反射電子係数、二次電子係数の低い低原子番号材料を配置する必要がある。シミュレーションで最適な物質・形状を探索中に年度を終えたが、次年度には最適な材料を購入する予定である。
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備考 |
1994年度~2017年度の国際会議、国内学会の発表論文について上記URLにて公開している
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