研究課題/領域番号 |
16K06340
|
研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
八木 秀樹 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 准教授 (60409737)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 情報理論 / 符号化 / 情報セキュリティ / 乱数生成 |
研究実績の概要 |
一様分布に従う確率変数を変換して,定常性もエルゴード性も仮定しない一般の通信路に送信信号として入力し,与えられた通信路の出力信号の確率分布を近似する問題は通信路Resolvability問題と呼ばれる.この問題では出力信号の確率分布の近似精度を保証したまま,できるだけ一様確率変数が取る値域のサイズを小さくすることが課題となる.本研究では,一様確率変数列の長さを可変とした「可変長一様乱数」を変換する問題を導入し,定常性もエルゴード性も仮定しない一般の通信路に対して,可変長一様乱数の長さの期待値の最少レート(通信路Resolvability)を特徴づけている. 平成30年度の研究では,情報源や通信路が定常無記憶性を有する場合に対し,通信路Resolvabilityを系列長に依存しない形式で特徴づけた.これにより,系列長に依存しない定数オーダの計算量で一様乱数の最少レートを計算することが可能になった.またこの結果を情報源が定常無記憶情報源の混合分布で与えられる場合に拡張し,情報源Resolvabilityを系列長に依存しない形式で特徴づけることに成功した. 固定長の情報源からの出力系列を長さが可変の符号語に置き換えて効率的に情報伝送を行う技術は可変長情報源符号化と呼ばれ,デジタル通信システムにおける最も基本的な符号化技術として長い間研究されている.本研究では,情報源Resolvabilityと可変長情報源符号化の最少レートが等しいことを示してきた.平成30年度の研究成果から,情報源が定常無記憶情報源の混合分布で与えられる場合について,可変長情報源符号化の最少レートを求めることができた.また同様のアプローチから,最適な二次符号化レートについても特徴づけることが可能となった.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度までの研究では、一般の情報源と通信路に対して通信路Resolvabilityを解析した結果、系列長による極限操作を含んだ形式で公式を導出した.系列に対する符号化の観点から得られた公式を見ると、その操作的な意味ができるようになったが、与えられた情報源や通信路に対してどのような値をとるか計算するのは一般に困難であった.平成30年度の研究ではこの点を解決することを主要な目的として作業をすすめた.シンプルかつ重要な情報源と通信路のクラスに対して系列長に依存しない定数オーダの計算量で計算可能な形式の公式を導出できており、また最適な二次Resolvabilityレートについても同様な形式で特徴づけることが可能となった.以上のことから、実施計画書のスケジュールに従って作業を実行出来ていると言える.
|
今後の研究の推進方策 |
平成30年度までの研究では,主に変動距離と呼ばれる確率分布間の距離尺度を近似の良さを測る制度として用いた.近年,一般の距離関数を用いて近似精度を測る(固定長一様乱数を用いた)情報源Resolvabilityの問題が導入されている.これにより,Resolvability問題の解析を通して得られた知見をを,様々な工学の問題に応用できるようになることが期待されている.本研究では,一般の距離関数を近似精度としたResolvability問題に対し,可変長一様乱数を乱数生成の種とした場合にどれくらい最小レートが低減できるかを解析する.またこの結果を通信路Resolvability問題に拡張する. 最もよい性能を持つ符号の符号化レートが系列長の増大とともにどのような速さで達成可能最適符号化レート(該当の問題では通信路Resolvabilityまたは情報源Resolvabilityに対応)に近づくかを表す指標は,二次符号化レートと呼ばれる.近年の情報理論分野では様々な符号化システムに対して二次符号化レートを正確に特徴づけることが重要な研究課題となっている.今後の研究でも,上記のResolvability問題に対して,二次の通信路Resolvabilityや情報源Resolvabilityを解析することを検討する. また上記の結果を用いることにより,情報セキュリティを目的とした様々な符号化システムにおいて強い安全性を効率的に実現する技術に応用することを目指す.
|
次年度使用額が生じた理由 |
予定していた国際会議出席のための出張費を他の研究経費から支出した.予定使用額は令和元年度の国際会議の出張のために支出する予定である.
|