研究課題/領域番号 |
16K06347
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
和田 忠浩 静岡大学, 工学部, 准教授 (00303529)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 流星バースト通信 / ソフトウェア無線機 / 環境観測、気象観測 / 低緯度地域 / インドネシア |
研究実績の概要 |
流星が地球の大気圏に突入する際、大気との摩擦により電離気体柱(流星バースト) が発生する。 流星バースト通信(MBC)とは、この流星バーストによる低VHF 帯電波の反射現象を利用した見通し外通信である。流星バースト通信システムは、最大2000km離れた通信局間で、大規模なインフラを必要とせずデータ伝送を実現できる。また衛星通信に比べても極めて簡単に安価に構築できる。 一方、通信に適した流星バーストは平均数分に1 回程度しか発生せず、また流星バーストの存在時間も数百ミリ秒程度と短いため、即時性が必要な通信には適さない。そのためMBCは多少の遅れを問題とせず、大量のデータ伝送を必要としない、環境観測や気象観測システムなどに応用されている。 本研究は、低緯度地域(赤道周辺)における流星バースト通信の有効性や将来の実用性を検証すべく、通信路の特性調査、通信性能実験を行うものである。低緯度地域の流星観測の結果、中緯度地域と比べ、流星バーストの発生する高度のばらつきが少なく季節変動も少ないことから、流星バースト通信に適していると考えられる。本研究では、インドネシア共和国・ガジャマダ大学と協力し、流星バースト通信の基礎検討としてトーン送受信実験やデータ伝送実験などを実施する。また、流星バースト通信の送受信機のソフトウェア無線化のため、波形整形、信号検出、パケット同期に関する理論的な検討を行う。この成果は、インドネシアにおける環境観測や災害ネットワーク構築の一旦を担うものである。 平成28年度は、実験の初期段階として、インドネシアの電波法(現地では新通信法)に関する調査と実験局の設置許可申請、 MBC送受信機器のよる性能検証実験などを行った。また、現地における雑音環境の測定を行った。さらに、MBC用送受信機の波形整形を用いた同期法の研究を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度の実施計画は(1)インドネシアの電波法(現地では新通信法)に関する調査と実験局の設置許可申請(2)ディジタルフィルタを用いたMBC用送受信機の波形整形・波形検出の研究(3) MBC送受信機器のよる性能検証実験(4)雑音特性の調査(5)流星バースト通信実験に関する知識の啓蒙であった。計画(1)に対し、インドネシア新通信法に基づく実験局の開設許可について調査した。インドネシアでは通信情報省が電波法を管轄しており、インドネシアの協力校であるガジャマダ大学が通信情報省と折衝した。そして平成28年5月に流星バースト通信に関する研究提案書を提出した。その際に、リモート局設置場所としてインドネシア・ウダヤナ大学の協力を頂くこととなった。研究提案書に対し、平成28年11月14日に、通信情報省より半年間の試行実験の実施の認可が得られた。計画(2)として波形整形フィルタを組み込んだ、短パケット受信用同期手法の検討を行った。流星バースト通信では通信路の開設時間が短いため、パケット長を短くする必要があり、そのパケットを短時間で同期する同期法が必要となる。そこで、波形整形フィルタを組み込んだ最尤推定に基づく短パケット同期手法を提案し、コンピュータシミュレーションで有効性を確認した。計画(3)に対し、流星バースト通信用モデムの性能評価実験を実施した。インドネシアで許可された周波数に調整された流星バーストモデムを、米国の通信機メーカに発注し、平成29年2月に入手した。入手した流星バースト通信機を確認し、インドネシアでの実証実験の支障のないことを確認した。計画(4)に対し、ガジャマダ大学において雑音観測実験を実施した。その結果、MBC実験を実施可能な環境であることを確認した。計画(5)に対し、ガジャマダ大学とウダヤナ大学を訪問し、教職員や学生らに実験内容を説明した。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、流星バースト通信に関する本格的な検討を行う。 まず、実証実験の準備として短期間の通信実験を実施する。実験局の試行許可期間内に、1、2日間程度の初期実験を実施する。この実験において、ガジャマダ大学の通信局をマスター局、ウダヤナ大学側をリモート局に設定する。さらに、両大学の設置場所に置ける雑音環境を詳しく測定する。この初期実験では、流星バースト通信における通信の可能性を調べるとともに、実施環境や実験場所の確認、実験協力者との協力体制についても確認を行う。 この実験において、問題点などを確認したのち、流星バースト通信局を数ヶ月間維持し、通信実験を継続的に実施する。その実験を実施するにあたり(1)実験設備の維持体制の構築(2)実験機器の操作法の確立(3)実験機器輸出入にともなう輸出入管理などの問題がある。(1)については、初期実験の際に実験実施場所の確認とともに、現地の教職員に設備の維持管理について十分な議論を行う。また現地学生らに流星バースト通信の実験の意義を説明し協力を仰ぐ。(2)については、現地の教職員や学生らに機器の説明するとともに、遠隔管理や遠隔操作ができるような仕組みを構築することを検討する。(3)については、本学の輸出入管理部門と十分に相談の上、円滑に機材の輸出入が実施できるよう検討する。
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