研究課題/領域番号 |
16K06383
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
後藤 由貴 金沢大学, 電子情報通信学系, 准教授 (30361976)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 電離層プラズマ / TEC計測 / GPS観測網 |
研究実績の概要 |
人工衛星-地上間の通信に影響を及ぼす電離層プラズマの監視は重要な課題である。これに対して、衛星測位システムの信号の定常観測網を利用した電離層TEC(電子密度の鉛直方向の積分値)の測定が国内外で積極的に進められている。こうした観測網は中緯度地域に多く、プラズマの変動が大きい低緯度地域において、今後、如何に観測網を展開するかが課題とされている。そこで本研究では、通常の電離層TEC測定に利用される高価な2周波受信機ではなく、低コストの民生用の1周波受信機を複数台連携させることによってTEC分布を測定する受信機連携型の観測装置の開発を目的としている。 本年度は、昨年度考案した電離層TEC分布推定アルゴリズムにおいて、受信機数に対するTECの空間分布を表す多項式の次数の妥当性を検討すると共に、同アルゴリズムを低コストな民生用の1周波GPSモジュールで取得した単独測距のデータに適用し、電離層観測の実現性を評価した。その結果、国土地理院の電子基準点のデータのうち1周波で取得されたものを利用した時と比べてTEC推定値のランダム性の時間変動が大きくなったものの、時間連続性を考慮した自己回帰モデルを適用してカルマンフィルタによりフィルタリングを行うことにより変動成分を低減できることを確認した。これらの成果は、幕張で開催された日本地球惑星科学連合2017年大会(JpGU 2017)およびカナダのモントリオールで開催された第32回国際電波科学連合総会および講演会(2018 URSI-GASS)にて発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H29年度は、受信機数に対するTECの空間分布を表す多項式の次数の検討を行うと共に、実際の受信モジュールに対する実装を行った。おおむね順調に進んでいるといえる。GPS信号を対象にした場合、一つの受信局から見える衛星数に依存して信号の伝搬経路が電離層を突き抜けるピアーズポイントの数が限定される。モデルの次数が低いと実際の電離層TEC分布を十分に表現できなくなり、逆にモデルの次数が高すぎると推定が不安定になる傾向がある。これに対して妥当な多項式の次数の検討を行った。また、受信モジュール実装においては、クロックの時間変動に起因する誤差を取り除くために、時間連続性を考慮した自己回帰モデルを適用し、カルマンフィルタによりフィルタリングを行うようにした。これらにより、本年度の課題となっていたTEC分布の空間・時間に対する連続性およびモデル中のもう一つの未知数である受信機クロック誤差の時間連続性を保証した観測モデルの構築が実現されたといえる。一方、学内に定常設置したアンテナ、民生用GNSS受信機、データ蓄積サーバにて、GNSS信号の連続観測を実施しており、長期データに対する手法の動作検証ができる環境を整備した。また今後の検討のために、東南アジア地域においてGPSデータの取得実験を行い、問題点を検討した。
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今後の研究の推進方策 |
当初の予定通り、複数の受信モジュールおよびマイコンによるTEC分布推定の実証実験を行う。現在までに要素技術は確立されており、これらを組み合わせることで速やかに実証実験が可能であると考えている。実証実験は、研究室の学生に協力を要請し、多地点にて受信モジュールを動作させ、セルラー回線およびクラウドストレージを通したデータ取得を考えている。これらについて、特に大きな技術的な問題は想定していない。また、最近、GPS以外の測位衛星からの信号も受信できる環境になってきたことから、開発した手法に対して、追加でこれらの信号を使うように改良することにより、受信機数が少ない状況でも、より柔軟な(次数の高い)TECの空間モデルが利用できるかを検討したい。以上の成果を国内外の学会で発表する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)執行見込み額と実支出額に僅かな差異が生じたが、研究計画に変更はなく、前年度の研究費も含め、予定通り計画を進める。
(使用計画)複数観測局を展開するためのマイコンモジュールの追加購入と国内外への出張旅費、本研究にかかる学生アルバイトへの謝金などに使用する予定である。
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