人工衛星-地上間の通信に影響を及ぼす電離層プラズマの監視は重要な課題である。これに対して、GPS信号の定常観測網を利用した電離層TEC(プラズマ密度の鉛直方向の積分値)の測定が国内外で積極的に進められている。こうした観測網を今後、如何に広域に拡大するかが課題とされている。本研究では、通常の電離層TECの測定に利用される高価な多周波受信機ではなく、低コストの民生用の1周波受信機を連携させることによってTEC分布を測定する手法の開発を目的としている。 今年度は受信機から得られるコード擬似距離(拡散コードの伝搬時間から算出した距離)と搬送波位相距離(搬送波の位相から算出した距離)の差分から算出したオフセットSlant TEC(信号の伝搬経路に沿ったプラズマ密度の積分値)を利用した新たなTEC分布推定法を考案し、同手法で主なバイアス誤差要因となる送受信機のハードウェアバイアスの取り扱いについて検討した。また、学内に設置したGPSアンテナを利用して、GPS信号の連続観測を実施し、長期データに対して開発した電離層TEC推定法が適用できることを確認した。さらに東南アジア地域においてGPS信号観測モジュールを使ったデータ取得実験を行い、開発手法によってTEC観測ができることを確認した。これらの成果は、米国ワシントンD.C.で開催された米国地球物理学会秋大会(AGU 2018)および2019年国際電波連合アジア・太平洋電波科学会議(URSI AP-RASC 2019)にて発表した。今後、同手法をマルチGNSSに対応させるなどの課題があげられる。
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