研究課題/領域番号 |
16K06385
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
佐藤 隆英 山梨大学, 大学院総合研究部, 准教授 (10345390)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 生体信号増幅回路 / 心電信号 / オフセット電圧低減 / チョッパ回路 / 増幅回路の多入力化 |
研究実績の概要 |
平成29年度は「生体信号処理回路の増幅回路の性能向上」と「生体信号増幅回路の多入力化の検討」をおこなった。 「生体信号処理回路の増幅回路の性能向上」では,生体信号増幅回路において出力電圧を飽和させる原因となるオフセット電圧の低減を行った。前年までに出力オフセット電圧を積極的に利用して出力電圧の振幅を最大とするフィードバック制御する手法を開発しているが,この手法は増幅回路の出力電圧振幅をより大きく確保できる反面,回路を安定に制御するためには非常に長い静定時間が必要となる。そこで,提案手法において初期出力電圧の飽和を避け,より高速な動作を実現するため増幅回路内部でオフセット電圧を低減する回路構成を検討した。提案する増幅回路は,信号増幅用とオフセット除去用の2個の増幅回路から成る。従来回路では増幅回路内部のスイッチからクロックフィードスルーやチャージインジェクションに起因する電荷の移動があると出力電圧オフセットの増加や出力電圧変動が生ずる問題があった。そこで回路内部の容量の構成を変更することにより,スイッチから電荷の移動があった場合にも出力電圧オフセットおよび出力電圧変動の低減を可能としている。平成29年度は提案回路を集積回路として製作し,その動作の確認を行った。 「生体信号増幅回路の多入力化の検討」では,システム全体が処理可能な生体信号の数を増加させるため,増幅器1個あたりの入力信号の数を増加させる構成の検討を行った。生体信号増幅回路において最も信号対雑音比を悪化させる原因となる増幅回路の1/f雑音を低減するチョッパ型回路を基本構成とし,チョッパ回路を時分割で用いて多数の信号の増幅を1個の増幅回路で行うための回路構成や,各部の回路設計を行った。 平成29年度は,増幅回路のオフセット電圧を低減技術に関する研究成果を中心に3回国内会議で成果発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は、提案する生体信号増幅回路の集積回路試作および測定を実施している。研究成果は3回にわたり国内会議で発表することが出来た。オフセット電圧を低減化可能な増幅回路を復数個提案し,それらを比較した結果を発表した。これは申請時の予定以上の進捗状況であるといえる。これらは平成28年度までに行った第1回チップ試作および平成29年度に行った第2回チップ試作に関連する内容である。第1回チップ試作において増幅回路のオフセット電圧の課題が明らかとなったため,この課題を解決する回路および制御を優先的に検討し,第2回チップ試作を実施した。その結果,オフセット電圧を低減可能な優れた生体増幅回路を実現することが出来た。今後,国際会議での発表も予定している。 さらに平成30年度に実施予定の第3回チップ試作に向けて,増幅回路を多入力化したシステムの設計を行った。平成28年度終了時に設定した計画に従い,こちらも順調に進行している。平成30年度は多数の入力信号を処理可能な増幅回路の試作を行い評価を実施する予定である。 一方で,増幅回路後段の信号処理については引き続き検討が必要である。平成30年度に継続して実施する予定である。生体信号および雑音の大きさは時間と共に変化する。各チャネルの電圧利得が時間変化する場合,各時刻における増幅率を増幅回路部から取得し、各チャネルの電圧利得が一定であった場合に相当する電圧信号を演算により取り出す処理や,多数の信号から胎児の心電信号の分離性能が高い信号の取捨選択の方法などを検討していく。 以上より,一部に今後の研究の進展が期待される項目も存在するものの,総合的には計画通りの進捗であるため研究は「おおむね予定通りに進展している」と評価する。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は本研究課題の最終年度に相当するため,これまで得られた研究成果を結合させた心電信号測定システムを第3回試作にて製作する。第3回試作は9月の設計完了を予定している。第3回試作では,平成29年度に提案および試作したオフセット電圧を低減可能な増幅回路を用いて,システムの多入力化を行うことを目指す。試作するシステムの初段にはチョッパ型の増幅回路を用いるが,この増幅回路を復数の入力信号で時分割して共用する予定である。時分割して信号を処理するためには,通常,サンプルアンドホールド回路を用いて各測定点の信号を同時にサンプリングして処理する。しかし,増幅回路の入力信号は極めて微小であるため,増幅回路の前段にサンプルアンドホールド回路を挿入することは信号対雑音比の維持の観点から望ましくない。そこで,入力信号に対して回路の動作を十分に高速とすることで,サンプルアンドホールド回路を省略した構成を採用する予定である。試作に先立ち,シミュレーションによりサンプルアンドホールド回路を省略した場合にも十分な信号分離性能を維持できることを確認する予定である。また,入力信号毎に必要な電圧利得は異なるため信号毎に電圧利得を制御する構成を採用する。この構成は平成29年度に検討済みであるが,この構成に平成28年度に提案したオフセット電圧を制御して大きな出力電圧振幅を確保する制御を組み合わせて用いることを検討する。 また増幅回路後段の信号処理についても検討する。増幅回路において各信号は独立した電圧利得で増幅されるため,各チャネルの電圧利得が時間変化を考慮し増幅前の信号を再現した後に独立成分分析などの信号分離のアルゴリズムを適用する処理を検討する。さらに母体の筋電からの雑音信号など信号に比べ大きな雑音成分を含む出力を排除するなど信号分離の性能を高く保つ信号の選択方法についても検討予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度は1回のチップ試作を行っているが,この試作は応用科学学会が募集した無償試作を活用して実施した。そのため第2回試作に支出を予定していた費用を節約することができた。また,平成29年度に行った集積回路試作の測定では,測定内容から測定器メーカ提供の無償の測定制御ソフトウェアを使用することが出来たため,測定用のソフトウェアの支出も生じず当初の予算に比べ支出を削減できた。 (使用計画) 平成30年度に第3回試作を行う予定である。納品時期が年末となるため測定は短時間で実施する必要があるが,第3回試作では、回路の規模が大きくなりチップの評価作業も膨大となることが予想される。そこで測定用のソフトウェアの購入と測定補助の雇用を予定している。また,研究成果の国際会議での発表も行う予定である。
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