研究課題/領域番号 |
16K06391
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研究機関 | 東京電機大学 |
研究代表者 |
原 和裕 東京電機大学, 工学部, 教授 (80112879)
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研究分担者 |
山口 富治 東京電機大学, 工学研究科, 助教 (20579768)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 環境計測センサ / 有機系浮遊物質 / MEMSデバイス / PM2.5 / ハウスダスト |
研究実績の概要 |
加熱された金属酸化物薄膜表面で、空気中に浮遊する有機系微粒子が接触燃焼することに伴い、そのサイズや種類に依存して薄膜の電気伝導が変化するという新規な検出原理を利用して、様々な病気の原因となるハウスダスト、PM2.5、カビの胞子、花粉等の有機系浮遊微粒子をリアルタイムで検出するセンサのプロトタイプを開発し、開発したセンサによる検出実験を行った。また、サイズの異なるポリスチレンビーズを用いて検出実験を行い、粒子サイズとセンサ応答の関係を調べてセンサの検量線を作製した結果、粒子サイズの定量的な計測が可能となった。 作製したセンサは、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems;微小電気機械システム)技術および薄膜技術を用いた低電力消費のセンサと、基本特性の研究に使用する薄膜型センサの2種類である。 前者のセンサを用い、ハウスダストによる検出実験を行った。その結果、検出された微粒子の大きさに対応した電気伝導の変化幅、立上り時間、立下がり時間が観測されるだけでなく、ハウスダストに含まれるダニの死骸に対して、電気抵抗値が一旦低下してから上昇する特異な応答パターンが得られた。これらのデータから、花粉やカビの胞子、ディーゼルエンジンから排出された微粒子(DPM)との識別が可能であることが明らかになった。また、後者のセンサを用い、各種の有機系浮遊微粒子に対する応答を調べた結果、これまで検知膜として使用してきた酸化第二錫ではなく、酸化亜鉛を使用すると、各種の妨害ガスに対する感度が低いため、有機系浮遊微粒子に対する選択性が向上することが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画通り、スパッタリング法によりセンサ膜およびヒータ膜、絶縁膜、保護膜、接着膜を堆積した後、設計・外注したホトマスクを用いて、ホトリソグラフィープロセスによる上記の膜の微細加工を行い、さらに、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems;微小電気機械システム)技術を用いたセンサのプロトタイプを作製した。センサ膜およびセンサ膜を加熱するヒータ膜を形成するダイヤフラムの作製法として、従来から用いてきたウェットエッチング技術に加え、ドライエッチング技術も採用し、有用であることを確認した。 このようにして作製したセンサを用い、ディーゼルエンジンから排出された微粒子(DPM)、および、ハウスダストに対して、検出実験を行った。その結果、微粒子1粒がセンサ膜に到達するごとに、パルス的な電気伝導の変化が得られ、それらが検出可能であるとともに、電気伝導の変化幅、立上り時間、立下がり時間が微粒子のサイズに対応していることから、粒子サイズの識別の可能性が示された。さらに、DPMに対しては、硫酸塩を含む微粒子に対して、電気抵抗値が一旦増加した後に、減少する特異な応答パターンが観測された。また、ハウスダストに含まれるダニの死骸に対しては、電気抵抗値が一旦低下した後に、上昇する特異な応答パターンが得られた。これらのパターンから、DPMやダニの死骸を選択的に検出できる可能性があることが明らかになった。 また、これまでセンサ膜として使用してきた酸化第二錫ではなく、酸化亜鉛を使用する薄膜型センサを開発した。このセンサは、各種の妨害ガスに対する感度が低いため、花粉等の有機系浮遊微粒子に対する識別能力が向上することが明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、検出対象とするPM2.5、ハウスダスト、カビの胞子、花粉等の有機系浮遊微粒子に対して、それぞれの各サイズに対応した様々なセンサ膜の形状を持つセンサの作製を行う。これと同時に、これまで、センサ構造としてセンサチップとヒータチップを独立に作製し組み立てを行ってきたが、センサとヒータとを同一チップ上に構成した新たな構造のセンサを作製する。このことにより一層の小型・低電力消費化を図り、センサを実用化に近づける。 上記の構造のセンサを作製するため、CADソフトを用いて微細なパターンの設計を行い、ホトマスクを外注する。そして、スパッタリング法によるセンサ膜およびヒータ膜の堆積後、作製したホトマスクを用いて、ホトリソグラフィープロセスによる微細加工を行い、センサを作製する。センサ膜としてこれまで使用してきた酸化第二錫に加え、酸化亜鉛を使用する。 作製したセンサを用いて、PM2.5より微細で肺の奥深くに侵入しやすく肺がん等を発症する可能性があるとされるPM0.5、および、アレルギーや肺の病気の原因となる空中浮遊菌を各種入手して、それらに対するセンサ応答を調べ、検出の可能性について明らかにする。 一方、屋内、屋外を含め、センサを様々な状況の場所に置き、センサ応答から粒子サイズや成分、さらにその濃度が求められるかどうかを検証し、その結果に基づいて、最適なセンサ周辺の電子回路の開発や識別のためのソフトウェア開発を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画にしたがって、ホトマスクを作製するための石英板、各種花粉・ハウスダスト等の測定試料、試料の選別のためのふるいやナイロンメッシュ、検量線作製のためのポリスチレンビーズ等を購入したが、端数として24円が残額として生じた。 残額の24円を含め、次年度に有効に使用していく。具体的には、測定試料としての各種菌株、センサ作製に必要なホトマスク、シリコンウェハ、試薬、ガラス器具等の消耗品の購入のために使用する。
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