本研究は,配管中などを流れる液状物体の性質や状態を動的に評価するため,サンプリングを行うオフライン計測や流路内へのセンサ設置等を行うこと無しに,非侵襲的に管中の液体試料の高周波比誘電率および誘電損失を測定する測定手法の確立を目的としている. これまでに,球状容器に封入した水に対し照射した単一周波マイクロ波の散乱波電力と誘電率の関係を解析し,実験的にも強い相関があることが分かっている.この手法による円筒容器内の水の散乱波電力の理論的な解析を基に,水を長尺のパイプ中に封入して電波吸収体で遮蔽することでその一部を電波的に露出した状態について,分極の分布を考慮する誘電特性の補正係数を実験的に導出している.さらに,ポンプによる液体循環機構を構成し,液体回路の一部の管状部に上記の領域制限構造を持たせて測定を行った.その結果,照射電磁界の変化速度(周波数)が液体の流速より十分早い範囲で,静止した液体から得られる散乱波スペクトラムの測定結果と流動する液体の散乱波測定結果の間に有意な差異はなく、本測定法が液体循環系へ適用できることが分かった. また,工業的に重要な潤滑や油圧作動に用いる油試料を測定対象とし,上記手法を拡張して広帯域の連続スペクトラムの差分評価を行う手法を開発した.加熱酸化試験による劣化に加え,水分および空気並びに金属粉の混入による影響の評価実験を行い,その結果,特に加熱時間すなわち油劣化度と測定結果評価量の間に高い相関があることを確かめた.さらに,スペクトラム評価の精度向上のため,信号処理により直接波と散乱波の干渉改善する方法を提案した.併せて,測定系の実用性を高めるために,送受信アンテナの兼用化を行い,また周囲環境からの反射の影響を調べるため電波暗室を整備し,ニューラルネットを用いたスペクトラム分析手法の導入により,実用的な性能を確認した.
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