交流電圧標準と交流電流標準を導くサーマルコンバータを用いて、交流電力標準を構築した。現在、交流電力の国家標準は、電圧標準、電流標準、位相標準の個別の国家標準の組み立て量である。この方法では、校正された交流電圧計、交流電圧計、位相計が基準器として用いられるため、電力標準の高精度化や範囲拡張が難しい。サーマルコンバータは、電圧範囲1 mV~1000 V、電流範囲1 mA~100 A、周波数範囲10 Hzから1 MHzまでの任意の交流電圧及び交流電流標準の基準器として用いられており、交流電力標準として用いた場合、範囲拡張が容易となる。サーマルコンバータは経年変化も小さく、不確かさ改善やメンテナンスなどの労力の削減につながる。本研究では、電力標準の基準器として用いることができるサーマルコンバータの開発と範囲拡張が可能な電力測定システムの開発を行った。 サーマルコンバータの作製については、電圧入力が10 Vまで、周波数範囲10 Hz~1 kHz、電流は0.1 A、10 Hz~1 kHzまで印加可能なサーマルコンバータを開発した。開発したサーマルコンバータのヒータ抵抗は、熱伝導率の高い窒化アルミ基板上に作製しており、温度変化の低減やヒータ抵抗の温度係数の改善などにより、電圧と電流とも60 Hzの周波数で、不確かさが20%改善した。また、開発した電力測定システムにおいて、電圧及び電流はサーマルコンバータを参照して校正された値を出力する。電圧と電流の位相は多相発信器の信号を参照として任意に調整することが可能である。このシステムにおいて、10 V、0.1 A、及び100 V、5 A、周波数は60 Hzの力率1の電力校正システムを構築した。値の確認のため、市販のデジタル電力計を仲介器として国家標準との比較を行い、新しく開発した電力測定システムと国家標準の校正結果は良い一致が得られた。
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