研究課題/領域番号 |
16K06409
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
河辺 徹 筑波大学, システム情報系, 教授 (40224844)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 計算知能援用制御 / IoT / 大規模複雑システム / モデル予測制御 / スライディングモード制御 / 機械学習 |
研究実績の概要 |
昨年度開発を進めてきたMP-PID制御法の改良と並行して、計算知能援用制御法の構築の第2段階として、MP-SMC法における対象システムの非線形性や複雑性との定性的/定量的関係について検討した。MP-SMC法では、制御入力を離散的に与えるために、チャタリングと呼ばれる振動現象が、非線形性に関連して制御性能を悪化させる要因となることを明らかにし、チャタリング低減性能と制御性能のトレードオフに基づく評価関数を提案するとともに、低減関数の検討を理論とシミュレーションの両面から解析したいくつかの成果を、国際会議1件と国際学術雑誌論文2本として発表した。 同様に昨年度から進めている、次世代都市交通システム(Advanced Rapid Transit) の一つである自動運転電子連結車両を対象とし、コウモリの飛行ダイナミクスに基づく追従制御法の拡張と高度化を行ったフォーメーション制御法を開発し、これを国際会議にて発表した。 また、開発中の制御手法を、計算知能を活かした機械学習と組み合わせてITS(Intelligent Transportation System)などの大規模交通システムへ適用するための、実用化のための研究開発も進めた。具体的には、昨年度から開始した、自動車の走行データを制御ユニットからクラウドサービスを用いて収集/蓄積し、これを解析することで、運転特性モデルや乗り心地の良い運転特性の定量的評価基準の導出による運転支援システムや自動運転技術確立のための基盤技術開発の一環として、発進,停止,左折,右折の4 つの運転動作に着目し、実車両を用いた走行実験データに基づいて実データを収集し、ドライバーの運転動作の抽出と加速度の時系列と特徴量の出現頻度に着目した機械学習による分析手法を開発した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要欄で述べた、“チャタリング低減性能と制御性能のトレードオフを考慮したMP-SMC法”、“自動運転を前提とした次世代都市交通システムのためのコウモリの飛行ダイナミクスに基づくフォーメーション制御法”、の研究開発を進められ,それらの成果発表を行うことができたこと、また,これら開発中の制御手法を、計算知能を活かした機械学習と組み合わせて大規模交通システムへ適用するための実用化のための研究開発も進められたことから “おおむね順調”と判断している。 ただし、MP-SMC法のチャタリング低減については大規模なシステムに対しては、特に、非線形性との定性的/定量的関係の解析がまだ十分とはいえない。また、蝙蝠の飛行ダイナミクスに基づくフォーメーション制御法においても、実用性の検証ができていない。これらのことに加え、計算知能を活かした機械学習と組み合わせて大規模交通システムへ適用するための実用化においては、実車両を用いた走行データの収集もまだまだ今後増やす必要があり、制御性能と学習効果の関係の解析やそれに基づいた、制御器のパラメータ値を制御ループ中で適応的に学習/補正する機能を付加した制御系の設計方法の開発についてはまだ途上である。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度に引き続き平成29年度も進めた、開発中の制御手法を、計算知能を活かした機械学習と組み合わせて大規模交通システムへ適用するための実用化のための研究開発においては、走行データ以外にも、交通状況に関するデータなどを用いたデータマイニングや深層学習の手法を用いたデータ解析手法の検討を進め,運転者の運転特性や搭乗者の乗り心地だけでなく、緊急回避等の全般的運転環境の向上に適した手法の構築を検討する。 これにより、並行して進めるMP-PID/MP-SMC法の改良や,コウモリだけでなく鳥の飛行動作等も参考にした運動制御法構築のためのモデルの導出と併せ,計算知能を活用し機械学習による補正機能を備えたモデル化手法の開発とロバスト性の高い制御系の構築を行う。また、実対象から得られる計測データを計算知能により学習させ、この学習データを直接制御入力に利用できる、モデルフリーのデータ駆動型制御系のような枠組みへの拡張も検討する。 この場合、複数の制御目的と制約が存在することになるため、多目的制御系設計問題としての定式化とその解法の開発も検討する。多目的問題の場合、目的同士のトレードオフが生じ、一意に解が定まらないパレート解となることが多いため、このような場合には、申請者らが現在開発中の、制御目的を制約変換した単目的問題を逐次的に解く方法により、仕様に応じて適切な解を選択決定する方法の適用も検討する。これらにより、選択型統合計算知能援用制御法の構築とその実用性の向上を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 平成29年度の当初物品費は、実データを収集/蓄積するためのサーバ購入を予定していたが、自動車の走行データについては、クラウドサービスを用いて収集/蓄積する方が、データの使い勝手や管理の面で省力化ができることがわかったため、そちらを活用することとし、データ解析とデータ保存用のPCならびに記録メディア等の購入にとどめ、研究室の既存のサーバやPCを併用したことによる。また、参加を予定していた国際会議について、学内業務日程との重なり等の事情により、参加を見合わせたことや、データ想定していたほど研究補助を依頼する必要がなかったことにより、旅費や謝金の支出が想定より少なかったことによる。 (使用計画) 平成30年度は自動車の走行データ以外にも運転環境に関する各種データの収集/蓄積とその解析も進める予定であるため、当初計画には予定していなかった設備備品としてサーバやデータ解析用の専用PCの購入を行う。また、大学院生研究協力者には、これらのデータ収集や整理、データ解析の補助などを行ってもらうために、謝金や参考図書の購入、必要ソフトウェアの購入等について、繰り越し分と合わせて執行する予定である。 その他、研究成果の発表と情報収集のための国内外の会議への参加と成果発表、雑誌論文発表、研究成果公開用サーバの整備等を引き続き進める予定で、これらの経費を含めて全体的な執行を行う。
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