研究課題/領域番号 |
16K06410
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
境野 翔 埼玉大学, 理工学研究科, 助教 (70610898)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 油圧アクチュエータ / バックドライバビリティ / 力制御 / 共振抑制制御 / 電気静油圧アクチュエータ |
研究実績の概要 |
平成29年度の研究は2自由度駆動可能な球体関節駆動形油圧アクチュエータの第二試作機の開発と広帯域・高バックドライバビリティの開発を行った。 1.平成28年度に設計した二つのベーンモータを組み合わせた球体関節形油圧アクチュエータの第二試作機を完成させ、直交する異なる動作を一つのアクチュエータで実現出来ることを実証した。また、提案したアクチュエータが高いバックドライバビリティを有することも併せて確認した。今後は作動油の漏れのさらなる低減を目指して、アクチュエータ内部に漏れ防止用のゴムシートを挿入することで改良する。 2.電気静油圧アクチュエータにおける圧力損失をモデル化することで、反力推定において相関係数0.98の非常に精度の高いモデルを獲得することに成功した。さらに、軸ねじれトルクを共振比制御によって補償することで、電気静油圧アクチュエータの共振を抑制する安定化制御を設計する事を可能にし、従来手法の5倍ほどになる非常に広い制御帯域を実現した。同時に、ソフトウェアの改良だけでバックドライブトルクを5分の1ほどにすることに成功した。開発した球体関節形油圧アクチュエータにこれを実装することでさらなるバックドライバビリティの改善が見込まれる。しかし、油圧ポンプの非線形性に由来する僅かな静止摩擦の影響により、力応答の立ち上がりにわずかな無駄時間が生じてしまった。よって、平成30年度は油圧アクチュエータだけではなく油圧ポンプの改良も併せて行うことでさらなる力制御性能の向上を目指す。 以上をまとめると、円形シリンダの開発、広帯域・高バックドライバビリティの開発いずれにおいても2年目にしてほぼ最終目標まで到達したと言える。しかし、上記したようにそれに伴い当初想定していなかったさらなる課題点もあきらかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ハードウェア、ソフトウェアの両面から申請時の予定を大きく超えているからである。 まず、ハードウェアの面では、申請時の予定では1自由度駆動可能な円形シリンダを製作可能であると考えていたが、実際にはベーンモータを組み合わせることで、これを2自由度駆動とできることを見出した。すでに基礎原理を確認できる第二試作機の製作と試験まで完了しており、これをさらに改良すれば高いバックドライバビリティと省スペース化を両立できる人間支援ロボットに適した新しいアクチュエータが実現できると見込まれる。また、申請時は油圧アクチュエータのみに注力していたが、油圧ポンプ自体にも高いバックドライバビリティを実現するための課題があることをあきらかにし、直動の油圧シリンダと回転型の油圧ポンプを組み合わせることでこれを解決しようとしている段階にある。さらに、申請時に想定していなかった配管の影響の重要性もあきらかにした。この影響を低減するために、ロボットのリンクに「血管」のように配管を製作することで、高い剛性と省スペース化を両立する方法を着想し、こちらも製作を開始している段階にある。 一方、ソフトウェアの面においては、申請時では平成30年度の時点で電気静油圧アクチュエータの広帯域化・高バックドライバビリティ化を達成することを目標としていたが、平成29年度時点ですでに制御系のみで制御帯域を5倍、バックドライブトルクを5分の1にすることに成功している。あとは製作したハードウェアと統合することで目標としていたバックドライバブルトルクを10分の1にすることも容易であると考えられるため、1年を残した段階ですでにソフトウェアに関わる研究は当初の目標を達成したと言える。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、球体関節駆動型油圧アクチュエータの実証機の完成、低摩擦の油圧ポンプ、リンクと一体化した油圧システムの三者開発を目指す。 1.球体関節形油圧アクチュエータは内側と外側、二つのベーンモータの組み合わせによって2自由度駆動しているが、開発した試作機においては特に外側ベーンモータの摺動部からの作動油の漏れが大きかった。よって、この摺動部に対してゴムシートを挿入することで作動油の漏れを低減させることを目指す。 2.油圧ポンプにおいては、回転型のポンプを用いるのではなく、直動型の油圧シリンダをポンプとすれば摩擦とバックラッシを大幅に低減できることが知られている。しかし、作動油の漏れにより、徐々にシリンダの原点がドリフトし、可動範囲の限界に達してしまう問題があった。そこで、本研究課題では、油圧シリンダと直動モータをカップリングすることで直動油圧ポンプとし、作動油の漏れによる原点ドリフトを小型の回転型ポンプで補償することで、実用的な直動油圧ポンプを開発する。 3.電気静油圧アクチュエータの実用上において、高効率のトルク伝達のためには作動油の圧力を高くする必要があるがそのためには作動油を太くしなければならない。特に、多自由度ロボットへ電気静油圧アクチュエータを実装する場合、複数の太い配管を配置すると配管の振動がロボットの動作にとって無視できないほどの外乱となってしまう。配管を細くするためには通常のゴム製の配管ではなく金属配管とすることが望ましいが、金属配管は加工が困難で多自由度化が難しい。そこで、リンクと配管が一体化した「血管」のように作動油が伝達する機構を作ることで多自由度の機構であっても金属配管とすることを可能にする。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じたが、6,068円でありほぼ計画どおりである。次年度への影響もない。
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