研究課題/領域番号 |
16K06416
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
石川 昌明 山口大学, 大学院創成科学研究科, 教授 (30201916)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 感染症モデル / 確率システム / 時間遅れ / 平衡解 / 安定性 / 確率リヤプノフ定理 / リヤプノフ指数 / シミュレーション |
研究実績の概要 |
(1)生物を対象にした実用的な感染症数理モデルを以下のように構成した.まず,未感染者,感染者,回復者,ワクチン接種者の各個体群に対して外乱の影響,感染伝播の時間遅れ,流行の季節性(感染率の時間依存性)を考慮した相互関係を考え,各個体群密度の時間的変化を確率解析に基づき, 時間遅れと時変係数をもつ確率連立微分方程式として,モデル化した.外乱の影響として,個人差や環境変化に起因する感染率や回復率に含まれる不規則性やワクチン効果の不規則性などを導入し,より現実的な感染症モデルを構築した.さらに,感染の時間遅れに関しては離散的時間遅れと分布的時間遅れを導入したモデルを構築した. (2)感染症モデルの感染者のいない平衡解DFS(Disease-free steady solution)の安定性解析を行った.確率リヤプノフ定理を応用し,DFSが安定となる条件を導いた.感染者のいない平衡解DFSが安定であれば,たとえ感染症が流行したとしてもやがて感染症は終息することになるので,この安定条件により,感染症が流行してもワクチン接種により終息可能なワクチン接種率を求めることが可能になった. (3)感染率,回復率やワクチン効果に含まれる不規則性および感染の時間遅れの安定性への影響を考察した.最大リヤプノフ指数を計算することにより,感染率,回復率やワクチン効果に含まれる不規則性にはDFSを安定化させる効果があることを明らかにした.また,感染の時間遅れは安定性にはほとんど影響を及ぼさないことも分かった. (4)数値シミュレーションにより,本研究で導いた安定性定理の有効性や外乱の安定化作用について考察した. 安定性条件を満たす場合,DFSが安定になることや外乱により安定化されることを検証した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実用的な感染症モデルが構築でき,安定性解析も十分な結果が得られたため.
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今後の研究の推進方策 |
より実用的な感染症モデル構築を目的に感染齢(感染してからの期間)や年齢構造を導入した感染症モデルを立案する. ワクチン接種率を制御入力,各個体群密度を状態変数として,感染者密度とワクチン接種率からなる評価関数を設定し,感染症抑制戦略構築を確率システムの最適制御問題として定式化し,確率最大原理(または確率動的計画法)を用いて最適な感染症抑制戦略を構築する. 感染者1人が生産する2次感染者数(基本再生産数R_0という)が1より小さくなれば感染者数0の平衡状態が安定になり,感染症の流行は阻止可能と考えられるが,ワクチン接種による感染症制御においてはR_0が1より小さくても感染者が定在する状態が安定となる場合がある.そこで, 確率分岐理論を応用し,感染症伝播を阻止可能な基本再生産数を解析する.さらに,ワクチン接種により感染者数0の平衡状態が安定になる条件を導く. 数値シミュレーションにより,構築した最適ワクチン接種システムの有効性を検証する.
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次年度使用額が生じた理由 |
スペックのより高い数値計算用シミュレータ(BTO PC)を2018年度に購入するため.
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