研究課題/領域番号 |
16K06417
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
村田 純一 九州大学, システム情報科学研究院, 教授 (60190914)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | システム工学 / 社会システム工学 / エネルギーシステム / 最適化 |
研究実績の概要 |
本研究は,制約や社会的要請の存在下でモノやサービスの提供を適切に行う仕組みの設計法開発を目的とする.具体的には,消費者の消費行動を適切なものに導く消費誘導策を設計する.消費者は,消費から得られる効用と消費誘導策から得られる利益を最大化する最適化問題を解いて自らの消費行動を決定すると見なすことができる.そこで,所望の解を与える最適化問題を発見する方法である逆最適化を活用し,社会や供給側の観点と消費者の観点の両者を考慮した消費誘導策を設計する.一般家庭の電力消費量削減をインセンティブ支払によって誘導するデマンドレスポンスを例として,本年度は以下の研究を行った. 1.消費者の希望電力消費量と意思決定過程を表現するモデルを構築した.希望電力消費量と気温等との関係の詳細な表現よりも,既存研究では考慮されていない消費行動の時間変化に着目し,節電が長時間継続できないことを説明できるモデルを構築した.また,消費者は,受取るインセンティブから,節電による不満足度の係数倍を差し引いた効用を最大化する意思決定者として表現した.供給側の観点は希望節電量としてモデル中に含まれる.加えて,モデル中のパラメータを実際のデマンドレスポンス実験データから推定した. 2.逆最適化を用いてインセンティブ設計を行う方法を開発した.望ましい節電行動を導くインセンティブが満たすべき条件を理論的に導出し,さらに,インセンティブ総支払い金額が最小となる条件や,消費者が公平で受け入れやすいと感じる条件を加えて,複数の設計例を提示した.また,必ずしも最適な行動をとるとは限らない消費者を,強化学習に基づいて確率的に行動を決定する主体として模擬し,設計したインセンティブが平均的には所望の効果をもたらすことを確認した. 以上の成果を,順次,国際会議,国内学会,学内シンポジウムにおいて発表し,国内学会では優秀論文賞を受賞した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初計画では,本年度は,(A)節電による不満足度のような消費誘導策では変更不可能な目的関数と,インセンティブ受取り利益のような誘導策の内容によって変更可能な目的関数とが混在する多目的最適化問題において,変更可能な目的関数を適切に設計する逆最適化の方法を開発すること,(B)消費誘導策の設計の際に制約やコストを考慮すること,の2点を実施する予定であった.(B)の制約やコストを考慮すると,(A)の逆最適化問題の解は数値計算によって求める必要があると予想していたが,研究を遂行していく過程で,これを理論的に得ることができることを見出し,研究実績の概要で述べた成果を得ることができた. また,限定的なものではあるが実際のデマンドレスポンスの実験データが入手できたため,当初は次年度に実施する計画であった,(C)消費者が消費行動を決定する際の満足度等の目的関数の把握,(D)消費者が持つ複数目的関数間の優先度の推定,も一部実施し,定量的な結果を含む成果を得ることができた. これらの成果は,研究発表を行った国内学会において優秀論文賞を授与される程度に高く評価された. 以上から,今後拡張が必要な部分は一部残るものの,研究は当初の計画よりも進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,当初計画していた研究項目のうち次年度以降に実施する予定であった,(a)状況変化への対応方法の検討,(b)個人差の把握と表現,(c)個人差への対応方法の検討,を実施し,併せて,実施済内容の拡張を行う. (a)についてはデータの継続的観察から状況変化を検出する方法,(b)と(c)については,個人差の把握,類似特徴を持つ消費者のグループ化,さらに,特徴が異なるグループ間の公平性を確保した消費誘導策について研究を行う.これらの遂行には,電力消費行動の時間変化や個人差を把握する情報源となるデータが必要である.研究計画時に,デマンドレスポンス実験を実施した外部の研究者からデータ提供の内諾を得ていたが,提供元の事情により,詳細なデータの提供を受けることができなくなった.このため,これらの項目については,電力消費データに限定せず,入手可能な公開データを活用する他,理論や手法開発に重点を置いて研究を実施する. また,実施済項目のうち,消費者の行動モデルには一部簡略化している部分があるため,気温などの外部要因との関係の表現や,同一消費者の行動のばらつきの取扱いなどについて,詳細化を行う.さらに,逆最適化を用いた消費誘導策設計法を,現在まで例として用いている電力のデマンドレスポンスに限定されない,より広い対象に適用できる一般的な設計方法へと拡張する.
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の研究遂行に必要な支出を行った結果,交付決定額と支出額との間に1万7千円弱の差額が生じた.金額は大きくないため,本年度に使用するよりも,次年度交付額と合わせて下記使用計画に記載の用途のために活用した方が研究全体の遂行のために有効であると判断した.
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次年度使用額の使用計画 |
次年度にカナダで開催される国際会議で本研究成果を発表するべく,論文を投稿済である.次年度使用額は,この国際会議に研究代表者と研究協力者とが参加するための旅費の一部として使用する計画である.
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