研究課題/領域番号 |
16K06421
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研究機関 | 大分大学 |
研究代表者 |
松尾 孝美 大分大学, 工学部, 教授 (90181700)
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研究分担者 |
星野 修 茨城大学, 工学部, 教授 (00303016)
末光 治雄 大分大学, 工学部, 助教 (50162839)
十時 優介 北九州工業高等専門学校, その他部局等, 助教 (70643120)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | システム生物学 / 細胞同期 / 概日リズム / Vensim |
研究実績の概要 |
我々は,CAM型光合成(ベンケイソウ型有機酸代謝)の単細胞生理学的モデル(4次微分方程式系)を制御対象として,周波数・位相制御系設計を非線形制御論の立場から研究してきた.多細胞系の挙動を解析するために,単細胞モデルにKuramotoモデルを適用した同期モデルを用いているが,生理学的な根拠に欠けている.最近,OwenらはVenSimを用いて細胞間炭素フローを考慮したSD(system dynamics)モデルを提案している.本研究では,この結果を応用することにより細胞間の炭素フローを取り入れた生理学的光合成モデルをシステム制御理論を基に構築する.さらに,周波数や位相を光,温度,二酸化炭素濃度によって制御した場合に起きる細胞間同期現象の発生理由を制御理論的観点から解明することを試みる.CAM植物の光合成モデルは,今だ黎明期にある.Blasiusのモデルでは,転写制御機構,酵素活性化や葉緑体でのカルビン回路が考慮されていない.最近,新たなCAM光合成モデルが提案されている.Owenらは,細胞間空間や葉緑体でのカルビン回路のダイナミクスを考慮した反応速度論をベースにしたフロー/ストックモデルを構築し,ループ図を用いるシステム・ダイナミクス・シミュレーション用ソフトVensimを用いて,日周サイクルでのPhase I,II,II,IVの応答を忠実にシミュレーションしている.本研究では,OwenらのSD(System Dynamics)モデルとBlasiusの4次微分方程式モデルを比較し,細胞外への炭水化物の流入出をどのように考えればよいのかを考察し,細胞内のCO2濃度の流束だけに細胞間のCO2濃度の差がフィードバックされる2細胞同期モデルを提案する.さらに,このフィードバック結合が同期にどのような影響を与えるのかを,MATLAB/Simulinkによりシミュレーションを行う.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
Owenの用いたVensimソフトウェアを用いてBlasiusモデルを実現し,OwenのモデルとBlasiusのモデル相違点を明らかにした.これらは単細胞モデルであるが,このモデルを改良して,カルビン回路から炭水化物が維管束(葉脈)を経由した結合モデルを提案し,パルス光に対する同期状態に結合の強さと時間遅れが関係していることを,シミュレーションにより確認した.また,成長度・減衰度を表わすマルサス係数を推定する非線形適応オブザーバの基礎理論を構築した.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,測定が容易な外部二酸化炭素取り込み量から精密モデル内の内部状態やパラメータをどこまで推定できるかをシステム同定の立場から明らかにする.ついで,提案した維管束結合モデルを用いて,入力として,外部二酸化炭素濃度,光の強度,温度としたときに,光合成リズムの周波数制御および位相シフト制御のための制御則を提案する.周波数制御は外部指令信号を用いるのではなく,内部ダイナミクスの整形を複数平衡点間の移動するヘテロクリニック軌道を用いる自己組織的方法を提案するとともに,成長度・減衰度を表わすマルサス係数を推定する非線形適応オブザーバを用いて,光合成リズムの規則性を評価する.また,位相シフトとして光の強度をパルス信号にすることで,信号タイミングを操作変数とした制御法を提案する.さらに,生成されるデンプン量の最大化,消費する二酸化炭素の最大化する周波数制御法,実りの時期をシフトさせる効率的な位相シフト制御法を検討する.
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度発表予定の学会に発表が間に合わなかったため,次年度開催の学会旅費に充当するため.
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次年度使用額の使用計画 |
2017年11月10日から12日に電気通信大学にて開催される自動制御連合講演会での発表旅費に充当するため.
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