研究課題/領域番号 |
16K06423
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
増田 士朗 首都大学東京, システムデザイン研究科, 教授 (60219334)
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研究分担者 |
加納 学 京都大学, 情報学研究科, 教授 (30263114)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | データ駆動型制御器調整 / 定値制御系 / 分散評価 / 制御性能評価 / 外乱抑制 / フィードフォワード補償 / 非線形制御 / PID制御 |
研究実績の概要 |
申請研究では,データから直接制御器調整を行なうデータ駆動制御器調整法において,データ取得が容易な定値制御データのみを用いた分散評価に基づく制御器調整法に着目し,その手法の理論展開およびプロセス制御応用を目指すことを研究目的としている.具体的には,[課題1]として,システム同定や制御性能評価の観点から新たな理論課題を設定し,その課題を解決することに取り組む.また,[課題2]として,実プロセスへの応用を想定した基本制御構造の拡張に取り組む.平成29年度では,平成28年度までの成果を踏まえて[課題1]として,データ駆動最小分散制御における理論課題に取り組み,a) 線形パラメータ表現された制御器に対するデータ駆動評価関数の妥当性の検討,b) 制御不変量から外乱モデルを同定する手法の開発,を進めた.これらはいずれも前年度までの取組みでは判明していなかった課題であり,平成29年度の取組みによって見出された理論展開の新しい方向性を示すものと考えられる.[課題2] については,a) 非線形系への拡張, b) 繰り返し調整法の導入,c) フィードフォワード外乱補償の導入について取り組んだ.a) については,昨年度までの研究を拡張し,RBFネットワークを導入することによって未知な非線形関数項を推定できるように拡張を行なった.また,b) については繰り返しPIDゲイン調整において微分器の時定数を調整する手法を提案した.さらにc) については,外乱と相関の高いプロセス変数が計測できるケースを想定し,計測信号からのフィードフォワード補償によって外乱抑制を行なう場合のフィードフォワード補償器の調整法を与えた.これらの研究により実プロセスに応用する上で遭遇する様々な問題を考慮することが可能となり,次年度の研究につながる重要な研究成果が得られた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は,平成28年度の研究成果をもとに[課題1]として,データ駆動最小分散制御における理論課題に取り組み,a) 線形パラメータ表現された制御器に対するデータ駆動評価関数の妥当性の検討,b) 制御不変量から外乱モデルを同定する手法の開発,を進めた.a) については,外乱モデルが既知の場合について評価関数を導出したのち,データ駆動型評価関数の最適値が本来の制御目的を達成する評価関数を減少させる条件を導いた.外乱モデルが未知の場合は外乱モデルを同時推定する手法を与え,外乱既知の場合と同様の理論解析を行なった.また,b) については出力データのデータ解析によって得られる制御不変量から外乱モデルを導出する手法を与え,外乱モデル未知の場合の別のアプローチの設計法を与えた.このように[課題1]として設定した理論課題について新しい理論的な成果が得られた.また,[課題2]として,a) 非線形系への拡張, b) 繰り返し調整法の導入,c) フィードフォワード外乱補償の導入に取り組むことを設定した.a) については,1入力1出力連続時間非線形アフィン系に対して,RBFネットワークを導入することによって未知な非線形関数項を推定することを行なった.また,b) については,繰り返しPIDゲイン調整において微分器の時定数を調整する手法を提案した.c) については,外乱と相関の高いプロセス変数が計測できるケースを想定し,計測信号からのフィードフォワード補償によって外乱抑制を行なう場合のフィードフォワード補償器の調整法を与えた.このように[課題1],[課題2]ともに設定した研究計画に基づいた取組みを行ない,国際会議および国内の学会で発表するといった研究成果を挙げることができている.したがって,概ね順調に進展していると評価できる.
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策は,これまでの研究成果を踏まえ,[課題1]の主要な成果としてデータ駆動最小分散制御の設計手順および理論解析の完成度を高める.具体的には,線形パラメータ表現された制御器に対するデータ駆動最小分散制御について理論解析を深める.特に閉ループ同定によって得られたプラントモデルを経由してモデルベースで制御器を設計する場合に比べた場合へのメリットを理論的に明らかにすることに取り組む.また,最小位相推移系,不安定系,多変数系への拡張可能性についても検討する.さらに,繰り返し調整法,Non-iterative Correlation Method法,学習制御手法などとの関係性について考察し,提案法の理論的な位置づけを明確にする. [課題2]では,前年度に行ったa) 非線形系への拡張, b) 繰り返し調整法の導入,c) フィードフォワード外乱補償の導入について拡張を展開する.a) については,第一原理に基づくモデル構造を利用した手法, b) については,定値制御データから勾配推定を行なうことによってIterative Feedback Tuning (IFT) 法によるパラメータ推定を行なう手法,c) については,計測可能外乱による外乱補償とランダムな外乱の両者が混在した場合の外乱補償を組み合わせた手法,について検討を進める. 今年度は申請研究の最終年にあたるので,[課題1],[課題2]の結果については国内外の論文誌に投稿することを薦める.また,これまで開発してきたアルゴリズムのツール化を行ない,開発したアルゴリズムを利用しやすい形にすることを検討する.また,化学プロセスモデルへの応用では,酢酸ビニルモノマープラントモデルへの適用について準備を進める.
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