研究課題/領域番号 |
16K06430
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
遠藤 哲郎 明治大学, 理工学部, 専任教授 (60247145)
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研究分担者 |
高坂 拓司 中京大学, 工学部, 教授 (80320034)
稲葉 直彦 明治大学, 研究・知財戦略機構, 研究推進員(客員研究員) (90213123)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | アーノルド共鳴ウェブ / 準周期振動 / 部分同期現象 / 区分定数回路 |
研究実績の概要 |
近年、3次元以上の準周期振動を発生する力学系には、アーノルド共鳴ウェブと呼ばれる複雑な部分同期現象という極めて複雑な分岐現象を呈することが、離散系の解析によって明らかとなった。この現象においては、n次元トーラスの発生する領域においては、(n-1)次元トーラスの発生する領域がパラメータ空間内において蜘蛛の巣状に交錯する。そして、これまで、3-トーラスを発生する沢山の離散力学系が提案され、3-トーラス内部に発生する2-トーラス部分引き込み領域の解析が行われてきた。しかしながら、現実の系を記述する連続時間力学系のアーノルドウェブの解析は、数値積分による不可避な計算誤差と、それに伴う膨大な計算量という2つの問題から、その詳細な解析は行われていなかった。通常の非線形系は滑らかな非線形項を含むため、リアプノフ指数を計算するためにはルンゲ・クッタ法のような数値積分法を用いる必要があった。 本研究では、極めて簡素な電子回路モデルとしてヒステリシスを含む区分定数回路を提案し、その電子回路に発生するアーノルド共鳴ウェブの構造を明らかにした。この電子回路においては、区分的に陽に解析解を導出することができ、さらに、各々の区分定数枝をよぎる時、陽にこれらの解析解を接続することが可能である。これによって、この連続時間力学系のリアプノフ指数を離散力学系のそれとほぼ同程度の精度と計算量によって求めることが可能である。当該年度は、3個のヒステリシスを含む自律系によって表される区分定数回路を提案し、系統的な計算機アルゴリズムによってリアプノフ解析を行い、リアプノフダイヤグラムを作成した。そして、従来法では不可能であった詳細なリアプノフダイアグラムを導出することに成功した。そして、これまでの解析では明らかにされていなかった、準周期振動の部分同期現象がヒステリシスを伴うことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで、矩形波外力によって励振される非自律系区分定数微分方程式によって表される区分定数回路と、3つのヒステリシス発振器によって構成される自律系区分定数微分方程式によって表される区分定数回路を提案し、それぞれの解析手法を用いることにより、リアプノフダイアグラムを作成した。これらの発振器においては、3つの非共鳴な周波数成分からなる3-トーラスが発生することが確認され、分岐パラメータ平面上において、2-トーラス部分同期引き込み領域が蜘蛛の巣状(web状)に発生することが明らかにされた。自励系、非自励系共に、区分線形系の解析解を用いて系統的に計算する計算機アルゴリズムを提案し、この方法を用いて多数のリアプノフダイアグラムを求めた。 具体的には、過渡状態、定常状態共に1000万回のポアンカレ写像の固有値を平均して求め、リアプノフ指数を計算し、そのリアプノフ指数の絶対値が1/100万より小さいとき、リアプノフ指数を0と見なした。蜘蛛の巣状に交錯する2-トーラス部分同期引き込み領域の交点にはChenciner bubblesと呼ばれる周期解が発生することを確認した。さらに、3-トーラスの発生領域の近傍においてはカオス現象が発生することを明らかにした。本研究で明らかにしようとしていた計画は概ね解決することが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
従来は、離散系、すなわち、現実には存在しない力学系のアーノルド共鳴ウェブの解析が行われてきた。これに対し、本研究では実際に物理実験において観測が可能な電子回路を用いてアーノルド共鳴ウェブを計算機実験において詳細に観察することに成功した。これまでの非線形力学系のカオス現象の解析の歴史を鑑みると、そのカオスの発生を証明するために、より簡素な力学系が用いられた。区分定数回路というのは、電子回路を究極的に簡略化した電子回路モデルで、それぞれの枝上において得られる解析解を解析的に接続することが出来、そのヤコビアン行列も陽に導出することが可能である。 しかしながら、これまでの筆者らの研究では、自律系と非自律系の解析を独立に行っていた。これに対し、筆者らはこれまでの自律系、非自律系によって表される電子回路を解析しているうちに、これらの系のリアプノフ指数を統一的な方法で計算するアルゴリズムを考えついた。今年度の研究においては、自律系、非自律系のアーノルド共鳴ウェブを系統的な導出するアルゴリズムを提案し、準周期振動の部分同期現象とカオスを観察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究では、実物理系を記述する区分定数回路という発振器を用い、リアプノフダイアグラムを導出した。そして、3-トーラスの発生を確認し、3-トーラスを発生する領域内部において2-トーラス部分同期引き込み領域が蜘蛛の巣状(web状)に交錯することを詳細な数値実験によって明らかにした。更に、回路実験を行い、蜘蛛の巣状に発生する2-トーラス部分引き込み領域が実験的にも観察できることを明らかにした。これらの現象を2次元非自律区分定数微分方程式によって表される電子回路と、3次元自律系微分方程式によって表される電子回路を個別に解析することにより、アーノルド共鳴ウェブと呼ばれる分岐の構造が存在することを確認した。 しかしながら、本研究では、自律系と非自律系の方程式を独立に解析していたが、筆者らは、これらの方程式を解析する一般的な定式化、アルゴリズムを用いて数値解析できることに気づいた。この一般的な表現方法を本年度は定式化する。
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