研究課題/領域番号 |
16K06446
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研究機関 | 北海道科学大学 |
研究代表者 |
今野 克幸 北海道科学大学, 工学部, 教授 (80290667)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | カルシウム溶脱 / 塩がマグネシウム |
研究実績の概要 |
NaClとMgCl2,そしてKClの水溶液(塩化物イオン濃度が1mol/L),そしてイオン交換水と硬水を用い,硬化セメントペーストの浸漬試験を行い,それら水溶液がカルシウム溶脱に及ぼす影響を各種の化学分析により調べた. 塩の水溶液は,イオン交換水に比べて硬化セメントペースト中のCa(OH)2を著しく減少させた.特にMgCl2水溶液の場合,Ca(OH)2の減少が著しいと同時に供試体表面にはMg(OH)2の結晶が確認され,浸漬時間の経過とともにその量は増加した.一方,硬水の場合,供試体中のCa(OH)2はほとんど減少しなかった.浸漬24時間の供試体表面を環境制御型電子顕微鏡(ESEM)およびエネルギー分散型X線分析(EDX)によって観察した結果,MgCl2水溶液の場合はMg(OH)2,硬水の場合はCaCO3の密な結晶層が確認された.浸漬時間1分の供試体をESEMで観察した結果,硬水の場合は表面にnmサイズのCaCO3の結晶生成が始まっているものの数百μmのレベルではほとんど変化が見られなかった.反面,MgCl2水溶液の場合はnmサイズの結晶生成と同時に数百μmサイズのひび割れが観察された.つまり,硬水の場合のCaCO3の結晶層はカルシウム溶脱を防ぎ,MgCl2水溶液の場合のMg(OH)2の結晶層はカルシウム溶脱を助長したと考えられる.硬化セメントペーストは水溶液に浸漬された直後から表面の変質が始まり,その後の耐久性に影響を及ぼすと考えられる.カルシウム溶脱に関する研究は,数か月といった長期間で試験および観察した研究報告が多いが,凍結防止剤に接する構造物やヨーロッパの岩塩坑における放射性廃棄物処分施設などは,塩の水溶液に曝されるため構造物の劣化が速く進むことが今回の実験で示唆された.それゆえ,カルシウム溶脱によるコンクリートの力学特性の変化を調べることの重要性が示された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では,平成28年度に「各種の凍結防止剤がカルシウム溶脱を促進する作用」について調べる予定であった.これについて,水溶液の濃度と温度を変数として実験を終え成果発表を行った.加えて,温度の違いに起因するコンクリート表面におけるCa(OH)2の結晶生成の差異について実験的に調べ成果発表を行った.平成29年度以降,「骨材および遷移体がカルシウム溶脱の速さに与える影響の解明」と「カルシウム溶脱を生じたコンクリートの力学特性低下の要因として遷移帯の影響の解明」,そして「セメント硬化体を構成する主成分,Ca(OH)2とC-S-Hそれぞれが,セメント硬化体の力学特性に与える影響の解明」をテーマとして挙げていた.そのための実験として,普通ポルトランドセメントを用いた供試体のカルシウム溶脱促進試験と普通ポルトランドセメントにシリカフュームを混ぜて作製した供試体のカルシウム溶脱促進試験を行い,その後の力学試験と化学分析を予定していた.平成28年度において,普通ポルトランドセメントを用いた供試体のカルシウム溶脱促進試験と力学試験を行った.つまり,平成29年度以降予定しいた内容の一部を前倒しで実施した.
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度に前倒しで実施した普通ポルトランドセメントを用いた供試体のカルシウム溶脱促進試験について,試験後の供試体の化学分析を行う.それと並行して,普通ポルトランドセメントにシリカフュームを混ぜて作製した供試体のカルシウム溶脱促進試験を行い,その後,力学試験と化学分析を行う. 化学分析で重要な項目はカルシウムの定量である.供試体中のCa(OH)2総量は熱重量分析によって調べる.また,断面内におけるカルシウムの濃度分布の測定は,EPMAによって実施可能である.しかし,当初予定では,そのためにEPMAとXRFの使用を予定していた.EPMAを北海道立総合研究機構工業試験場に依頼する予定であったので,どの程度満足のいく結果が得られるか図れない部分もあったため,補助的に現有の機器としてXRFの使用を考えていた.ところが,平成28年度に所属機関(北海道科学大学)にEPMA(日本電子,JXA-8230)が導入されたため,外部への委託が不要になったと同時にXRFによる補助的な分析は取りやめる.平成28年度にEPMAによる予備的な分析,すなわち分析条件を決定するためのプロセスを概ね終えた.そのため,供試体断面におけるカルシウムおよびケイ素の濃度を定量分析する目途が立った.当初,EPMAの分析依頼に予定していた予算を標準試料や包埋樹脂等の消耗品の購入に充て,供試体断面におけるカルシウムの濃度分布の測定を実施する予定である.
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