当初計画として,平成29年度以降のテーマを3つ挙げていたが,現有のEPMAが平成28年度以降,移設等により数か月間使用できず遅れが生じた.したがって,上記テーマの内,最も重要な「セメント硬化体を構成する主成分,Ca(OH)2とC-S-Hそれぞれが,セメント硬化体の力学特性に与える影響の解明」に注力した. カルシウム溶脱を生じた硬化セメント供試体,すなわち厚さ4mm(溶脱が進行する方向)の薄片供試体の幅1mmの領域に対してEPMAの面分析を行い,約200本のCa濃度プロファイル数値データを取得した.Ca(OH)2とC-S-Hは Ca濃度が大きく異なるので,面分析の結果得られたCa濃度のばらつきは正規分布にならない.このデータに対して,Bi-Gaussian関数を用いるなど統計的な処理を施し,「固相中の初期Ca濃度」と「固相中のCa(OH)2溶出後のCa濃度」を求め,さらにCa濃度勾配をモデル化する手法を確立した. 次に,Ca(OH)2およびC-S-HのCa減少量が硬化セメントのヤング係数に及ぼす影響について調べるために断面分割法による解析を行った.断面分割法の各要素のヤング係数は,モデル化によって得られたCa濃度勾配にしたがって低減させた.その際,Ca(OH)2およびC-S-HのCa減少量に比例的にヤング係数が低下すると仮定し,Ca(OH)2およびC-S-Hによる影響を重ね合わせで表現しそれぞれに重み係数を与えた.解析の結果,Ca(OH)2の重み係数が0.7程度,C-S-Hの重み係数が0.3程度となった. 現状では,仮定した関数に改良の余地があり,この結果は今後修正する可能性があるが,Ca溶脱を生じた硬化セメントのCa濃度分布をモデル化する手法を確立し,Ca(OH)2およびC-S-HのCa減少量が硬化セメントの力学特性に及ぼす影響を定量化する方法を提案した意義は大きい.
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