本研究では,土木構造工学の立場から送電設備の安全性向上に貢献することを趣旨として,基礎不同変位や過大荷重の作用下での鉄塔の損傷機構と耐荷力保持程度を解明し,その力学的知見をベースとして,損傷後の修繕要否を判断する健全性判定指針および修繕後の回復性能を定量保証した修繕指針の確立を試みた.3年間の研究期間で取り組んだ研究項目とその成果は以下の通りである. 研究項目1:近年発生した送電鉄塔の被害要因分析を行い,鉄塔の損傷・崩壊機構解明のための解析で想定する典型的ハザード事象を設定した.本研究ではとくに地震や強風による被害を検討対象とすることとし,強風時の塔体作用風圧や電線張力増大を想定した外力設定を行った. 研究項目2:鉄塔・基礎の耐荷性能を忠実に評価するための三次元有限変形有限要素解析プラットフォームの整備を行った.これにより,実在鉄塔の三次元形状と部材諸元を忠実に再現したモデル化を行い,部材降伏・座屈から全体崩壊へ至る過程を評価可能とした. 研究項目3:季節想定風荷重の作用下における終局耐荷力および部材損傷について詳細な検討を行った.具体的には,作用荷重の増加過程における部材損傷の典型的な発生位置に着目するとともに,部材損傷の進展程度を定量化し,部材損傷の進展と鉄塔構造全体としての耐荷力喪失挙動との定量的な関係を明示した.さらに,地震等による鉄塔周辺の地盤変状を想定した検討も行った.その結果,損傷因子の違いにより,部材損傷と耐荷力喪失との定量的な関係は大きく異なることが明らかとなった. 研究項目4:部材交換などの修繕を模擬したシミュレーション方法を構築した.この方法を用いて,研究項目1での解析対象鉄塔について損傷が著しい部材の交換による修繕を数パターン設定し,修繕による性能回復の定量評価を行った.これにより,損傷形態に応じた効率的な修繕方法の策定が可能となった.
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