本研究では,構造物のセンシングにより得られる動的な時系列データから,構造物の動的特性のみならず、データに含まれる長期的な構造物の特性変化を捉える手法を構築することを目的として、時系列データに含まれる長期的変化や動的成分などをモードとして分解して評価するため,位相空間上での軌跡形状変化に着目した,新しいデータ分析手法を提案している.本手法は,出力データのみにより分析できる利点があり,画期的なデータ分析方法として期待できる.また,申請者がこれまで開発してきた非線形発現に着目した構造物の異常検知手法との組み合わせにより,複数の非線形要因をそれぞれ異なるモードとして捉えることにより,地震時データなどの動的なデータをより高度に分析できる可能性があり,その点についても検討を行うこととしている. 平成30年度は,実大実験データを対象として,提案手法の適用について検討を実施した.実大実験データとしては,実際に実橋梁に適用され撤去されたプレストレストコンクリート桁の破壊実験データ,実鋼箱桁橋梁で計測した地震時を含む長期モニタリングデータを適用することとした.その結果,プレストレストコンクリート桁の損傷の進行を提案手法により捉えることが可能であることを示した.また,実橋梁の地震時データに対して非線形指標と提案手法を適用することにより,ダメージの有無などの検討が可能となった.さらに,様々な非線形要因の一つとして,支承部が拘束され挙動が非対称となる現象を想定し,実橋梁実験とFEMによるシミュレーションを行い,提案手法の適用するとともに,位相空間における新しいインデックスを提示し,その有効性を確認した.実際のモニタリングシステムにより得られたデータへの適用性,有効性を確認し,実装可能な分析方法として構築することができたと考えられる.
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