研究課題/領域番号 |
16K06464
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研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
小嶋 啓介 福井大学, 学術研究院工学系部門, 教授 (40205381)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 常時微動 / 位相速度 / H/Vスペクトル / 勝山盆地 / S波速度構造 |
研究実績の概要 |
微動計間の距離を等比数列的にとり,直線状に配置する線状展開アレイ観測に基づく地下構造推定法を提案するとともに,福井県各地で微動観測を詳密に実施し,提案手法を適用することにより信頼性の高い地下構造モデルを構築し,地震被害予測の精度向上に寄与することを目的とする.本手法の特徴は,微動計間距離ごとの2点アレイによる一般化スペクトル密度と,各測点のH/Vスペクトル比という2種類の情報が,地下領域の異なる特性を含有していることに着目し,S波速度の深度分布を求める段階と,すべての観測情報を再現できる観測点直下のS波速度構造の同時最適化という2段階で活用することにある.この微動観測情報の多重活用により,従来の微動情報を利用した地下構造推定に際し問題とされていた,S波速度と層厚という未知パラメータのトレードオフの問題が克服され,一義的な地盤モデルの推定が可能となる. はじめにモデル地盤を用いた微動のシミュレーション波形を用いて,提案手法と従来の円形アレイ配置を用いた場合の位相速度や地下構造推定の妥当性を検証する,ついで,本手法の適用地点として,原子力発電所と断層が集中する福井県嶺南地域,ならびに微動に基づく地下構造探査が困難な段丘や扇状地が広がる勝山盆地を選定し,微動観測を集中して実施し,地下構造や断層運動に伴う活構造を評価する. 平成29年度までに,上述のS波速度推定法を定式化するとともに,上林・大堀らによる不整形モデル地盤ならびに大阪平野の複数の地点をモデル化した微動シミュレーション波形に本手法を適用し,線状展開アレイ観測が通常配置と同等の性能を有していることを確認した.また,福井県の勝山盆地周辺を対象とし,微動の会と筆者らによる合同微動観測を行い,地下構造の推定を試みた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
不整形地盤モデルによる遠方からのランダム加振による微動シミュレーション波形を対象とし,従来の円形アレイと提案する線状展開アレイ観測を想定し,それぞれに拡張SPAC法を適用し,提案する方法が円形アレイと同等の推定精度が得られることを確認した. 同手法の実地盤に対する適用地点として,福井県の勝山盆地を対象とし,常時微動の線状展開アレイならびに単点3成分微動観測を実施した.勝山盆地は九頭竜川水系の段丘および扇状地などが大部分を占め,微動を用いた探査が比較的困難な地盤条件であるが,複数の微動計を縦・横断方向に列状に並べる同時観測を複数回行うことにより,微動計間隔として1m~100m程度までまんべんなく設定でき,Rayleigh波位相速度が算出できることを確認した.勝山盆地における単点3成分観測によるH/Vスペクトルから,軟弱層および第四紀層に起因する卓越周期が判読できることを示した.勝山盆地では,1~数m程度の薄い盛土および軟弱層に起因する卓越周期と,第四紀層に起因する卓越周期が存在することが確認できた. 微動観測から算出されたRayleigh波位相速度とH/Vスペクトルをターゲットとし,軟弱層と第四紀層のS波速度構造を推定する逆解析法を適用した.その結果,扇状地および段丘の形成区分ごとに矛盾のない構造が推定された.
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度については,原発隣接自治体であり活断層上にも位置する小浜市,若狭町など嶺南地域において常時微動観測を継続するとともに,29年度までに開発した常時微動観測に基づく地下構造推定法を順次適用し,S波速度断面構造を解明していく.また,申請者が過去に実施した従来のアレイ観測情報と単点観測によるH/Vスペクトルをターゲットする従来のS波速度構造推定法も並行して行う.以上の構造推定結果をボーリングおよび弾性波探査,重力異常などの既存情報から検証するとともに,観測情報の再現性,推定地盤モデル間の相関を検討し,地盤モデルの信頼度を定量化し,相互補間することにより,上記地点周辺の地盤モデルを構築する際の基礎情報とする.推定された測線展開アレイによるS波速度構造断面情報,ならびに単点微動観測点ごとに推定されたS波速度構造を標本として,地盤統計手法による空間補間を行い,原発立地・隣接自治体の3次元地盤モデルを構築するとともに,地震応答解析を行い地盤増幅率分布図を算出する. 上で示した平野域を対象とした研究とともに,福井県嶺南地域に存在する活断層周辺においても,断層直交方向に複数の測線をとり微動の展開観測を集中して行う.これらの観測点についてもS波速度構造を推定し,沖積層から基盤に至る地盤の剛性と層厚の空間分布構造を求め,断層の連続性や活動度の評価を行う.以上の研究成果として構築された地下構造モデルによる地震動増幅特性ならびに断層の活動に伴う震度分布図などの地域住民に必要とされる地震ハザード情報を順次公開する.
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次年度使用額が生じた理由 |
平成30年の早春に微動計測を予定していたが,大雪のため実施が困難な状況となり,平成30年度の前半に実施するように計画を変更した.このため,使用予定であった常時微動計測にかかる機器を30年度初期に購入することに変更したことによる.
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