収縮により導入された初期応力や初期損傷が,せん断補強筋のない鉄筋コンクリートはり部材のせん断挙動に及ぼす影響に関する知見を得るために,封緘・乾燥養生したはりの載荷実験を行った。また実験では,数値解析技術の検証等に資するために,養生期間中のはり内部の相対湿度やはり作製に使用したコンクリートの圧縮強度や収縮ひずみの経時変化を計測した。加えて,簡便な解析手法を用いて,はりに導入される初期応力が,荷重作用時のはりの挙動に及ぼす影響の検討を行った。 本研究の範囲内では,小型断面を対象とした実験的検討では,材齢経過に伴う試験体内部の部位ごとの相対湿度変化,コンクリートと鉄筋のひずみ変化を計測することができた。また,コンクリートの収縮により鉄筋に導入される初期ひずみが同等であっても,かぶり付近コンクリートに生じるひび割れの程度により斜めひび割れ発生荷重が,封緘試験体のそれと比較して増減する結果が得られた。部材軸に一様な初期応力状態を仮定した簡便な解析的検討では,初期応力状態による曲げ・斜めひび割れ発生状況の違いがせん断耐荷機構を変化させることで,斜めひび割れ発生荷重が低下し,せん断耐力が高くなる傾向が得られた。解析結果から,これは初期応力の増加に伴い,曲げひび割れ本数の増加,曲げひび割れがより圧縮縁方向に進展すること,斜めひび割れがより支点側に移動することなどが確認でき,これらがはりの耐荷機構においてアーチ機構の割合を高めたことにより,耐力が増加したと考えられる。
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