研究課題/領域番号 |
16K06481
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研究機関 | 松江工業高等専門学校 |
研究代表者 |
武邊 勝道 松江工業高等専門学校, 環境・建設工学科, 准教授 (40390489)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 耐候性鋼橋梁 / 表面処理仕様 / 腐食劣化状況 |
研究実績の概要 |
分析対象橋梁をさらに増やし,橋梁鋼板の腐食生成物を採取し,イオン交換水とともに振とうした時の振とう溶液のCr(VI)濃度について分析を行ってきた.その結果,腐食の進行の著しい部分からCr(IV)の溶出が多いものの,Cr(VI)の溶出量はさび厚や膜厚やイオン透過抵抗値と必ずしも明瞭な相関関係を示さないことが明らかとなった.一方で,振とう溶液中のpHが高いほどCr(VI)の溶出濃度が高いことがわかった.研究対象地域では,海塩粒子や凍結防止剤が飛来物質として卓越するものの,高いpHを示す振とう溶液のイオン組成はNaClやCaCl2に比べて,Naに富む傾向がある.このことは,Cr(VI)が溶出する鋼板上の腐食部位で,陰イオンと陽イオンの再分配・再分布が起こっている可能性,または,海塩粒子や凍結防止剤以外の物質が橋梁桁鋼板へもたらされている可能性を示している. また,中国山地内の橋梁の桁外と桁内で27年間暴露されてきた耐候性鋼の試験片の分析を行った.その結果,橋梁の桁内で曝露された表面処理仕様試験片の表面処理皮膜の劣化が確認され,その腐食生成物からCrの溶出が確認された.表面処理皮膜の劣化が進行していない試験片の表面からはCr(VI)の溶出は確認されないことから,塗膜の劣化や腐食の進行がCr(VI)の溶出と関連することが示唆された. 加えて,裸仕様の耐候性鋼の腐食性生物からのCr(VI)溶出の可能性を検証する目的で,密閉箱内で塩化ナトリウム溶液,塩化カルシウム溶液,塩化ナトリウム+炭酸ナトリウム溶液,人口酸性雨を噴霧して腐食促進試験を行った.1年後に回収した腐食性生物からは,Cr(VI)の溶出をほとんど確認できなかった.塩化ナトリウム+炭酸ナトリウム溶液噴霧の試験片から微量のCr(VI)の溶出が確認されたものの,濃度が低いため,再検証が必要である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度に比べて,平成29年度に分析対象橋梁を倍近くに増やしたことで,著しい腐食が確認できる部位からのCr(VI)が溶出する傾向はあるものの,さび厚や膜厚やイオン透過抵抗値とCr(VI)の溶出量は必ずしも明瞭な正の相関関係を示さないことが明らかとなった.加えて,試料を増やして解析を進めた結果,振とう溶液のpHやイオン組成とCr(VI)の溶出量の関係が明らかにされつつある.この関連性についてさらに分析を進めていくことで,耐候性鋼橋梁の橋梁鋼板からCr(VI)が溶出する環境条件を,より具体的に明らかにできると期待できる. また,橋梁周辺で自然曝露されてきた試験片を平成28年度末に回収した後,その腐食・劣化状態を調べ,その結果を平成29年にまとめて学会発表や査読つき論文で公表した.平成29年度には引き続いて,その試験片表面の腐食生成物からのCr(VI)溶出量の分析を行い,Cr(VI)を溶出する試験片およびその部位を特定できた.このことにより,今後,表面処理皮膜の劣化とCr(VI)の溶出の関係についてより詳細に分析するきっかけが得られた. 加えて,耐候性鋼の腐食生成物からCr(VI)の溶出の検討を目的とした,平成28年12月から平成29年12月まで行ってきた1年間の密閉箱内での耐候性鋼の促進腐食試験が完了した.試験片からの腐食生成物からのCr(VI)の溶出量について分析を行い,ほとんどの裸仕様試験片からはCr(VI)が溶出しないことを確認できた.ただし,微量のCr(VI)の溶出の可能性を示す試験片が存在したため,今後はその試料に絞って分析や再検証を進めていくことができる. 以上のように,Cr(VI)溶出に関わる要因,それを解明するために詳細分析すべき試料や部位などが絞られてきており,おおむね順調に研究が進展しているといえる.
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今後の研究の推進方策 |
耐候性鋼の腐食生成物とイオン交換水の振とう液で高いCr(VI)濃度を示すものは,高いpHを示すことから,平成30年度は,振とう溶液のpHを高くする要因物質について明らかにする.具体的には,振とう液中の陰イオン組成,陽イオン組成,炭酸濃度を分析し,腐食生成物に含まれる塩を明らかにするとともに,その起源について検討する. また,山間地で27年間曝露された表面処理仕様耐候性鋼試験片の内,Cr(VI)が溶出した試験片に絞って分析を行う.これまでの分析では,数~数10cm規模で表面処理皮膜の劣化の評価を行ってきたが,実際の塗膜の劣化状況やCr(VI)溶出状況は,数mmスケールで異なっていると考えられる.そこで,平成30年度は数mm規模での塗膜の劣化状況とCr(VI)の溶出状況を分析し,塗膜劣化とCr(VI)溶出の関係を明らかにする.このことにより,どの段階での,どのような塗膜劣化状況でCr(VI)の溶出現象が起こるのかを明らかにできると期待される. さらに,密閉箱内で行った塩化ナトリウム+炭酸ナトリウム溶液噴霧の腐食促進試験片については,Cr(VI)溶出の有無を再検証するため,振とう溶液を濃縮してCr(VI)濃度の分析を行うことを試みる.その結果から,表面処理剤が塗布されていない耐候性鋼の腐食生成物からCr(VI)が溶出する可能性の再検証を行う. 最終的に,以上の結果をまとめ,表面処理仕様の橋梁で,どのような条件下で表面処理皮膜の劣化や腐食が進行した場合で,表面処理皮膜の劣化がどの程度進んだ段階で,あるいは,腐食生成物中にどのような塩が含まれる状況において,Cr(VI)が溶出するのかを明らかにする予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
保有物品などを活用したことから,小額の次年度使用額が発生したものである.平成30年度の物品費に参入する予定である.
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