研究課題
東京電力福島第一原子力発電所の原子力事故で放出された放射性物質で,その量と半減期の面から健康や環境影響上,主に影響が大きいのはヨウ素131,セシウム134,セシウム137,ストロンチウム90の4種類である.中でも,セシウム137は放出量が1.5×1016ベクレルと多量であること,かつ,半減期が約30年と影響が長く続くだけでなく,現在も広い範囲で検出が続いている.セシウムは土壌の粘土鉱物に固定されることで,その除去が困難となることが知られている.セシウムを含む土壌を全土剥ぎ取った場合,その仮置き場所と中間処理施設の確保についても課題は多い.したがって,汚染土の放射線量を少しでも下げ,汚染土の容積を減少させる減容化の技術を確立することが必要である.本研究では,セシウムを固着しやすい土壌として,バーミキュライトと豊浦標準砂を混合した人工土壌を作製し,これに対して抽出&吸着試験を実施し,より効率的な除染手法の開発に向けた検討をすることとした.バーミキュライトおよびバーミキュライト混合砂のセシウム吸着能を調べるため,様々な条件下でセシウム抽出試験を行った.抽出を行うにあたっては,試験土壌に対してセシウム抽出溶液の酢酸アンモニウム水溶液(3%濃度)100mLを加え,土壌からのセシウムの抽出を促した.なお,バーミキュライトについては,3種類の粒径(0.7mm,1.0mm,2.0mm)を用いた.試験より,(1)バーミキュライトはその比表面積の大きさから粒径が小さいほどセシウム吸着能が高い,(2)バーミキュライトの混合比の高い混合砂では,セシウム抽出率が低い,(3)電気泳動による抽出&吸着試験では電流値が低いほど吸着材のセシウム吸着量が多い,というようなことが確認できた.今後,より低い電流値で電気泳動試験を行い,さらに効率的なセシウム抽出および吸着試験の条件を模索する予定である.
2: おおむね順調に進展している
計画書に記載した内容を,概ね計画通りに進めている.
陸地における空気線量は減少傾向にあるものの,海洋では,年々,汚染が増大している.これは,陸域に降下した放射性物質が,降雨等によって湖沼,沼,そして河川へと移行し,最終的に海洋へ流出しているからである.特に,海流の影響などを受け難い湾内などでは,放射性物質が外洋に拡散せずに湾内に留まる傾向があると考えられる.陸域における除染は,人口の多いところに限られることが多く,人里離れた山間部で実施されることは少ないが,除染されていない箇所から河川等に流出し,最終的に海洋が汚染されるという結果となっている.海洋,特に底泥等に生息する動物が被爆すると,それを捕食する動物も被爆し,食物連鎖を通じて濃縮されたものが人間の口に入る可能性も考えると,海洋の除染を進める必要がある.しかしながら,水域における底泥に沈着した放射性物質の除染については,現時点ではほとんど進んでいない.水が放射線を遮蔽するので,直接の被爆の可能性が低いという理由もあるが,底泥を浚渫すると,逆に放射性物質が拡散してしまうということも理由の1つである.したがって,水域においては,汚染土の減容ということに加え,浚渫にともなう拡散を防ぐ意味でも,放射性物質のみを取り除くことが望まれる.そこで本研究では,底泥側から溶液側へと水を対流させることを考えている.対象としては,セシウムではなく,ストロンチウムとする.その理由は,(1)東京電力の汚染水漏れの問題では,セシウムは除去されているがストロンチウムは除去されずに漏洩が続いている(2013年8月24日付毎日新聞など),(2)動物が放射性物質を体内に取り込んだ際に,カルシウムと同じアルカリ土類金属に属するストロンチウムを体内の骨等に蓄える可能性が高いことなどが挙げられる.以上より,今後は,水域の除染や浄化を目標として研究を進める.
想定していたよりも,出張費を低く抑えることができたため
次年度(平成29年度)に使用する
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 2件)
International Journal of GEOMATE
巻: Vol.11 ページ: 2259-2266
Japanese Geotechnical Society Special Publication
巻: Vol.4, No.4 ページ: 163-167