本研究課題では,まず,研究代表者らがこれまで開発してきた「水循環-農業活動の動的結合モデル」の高度化を進めた.これにより,流域の水循環,農地土壌内の水移動,水稲生産量に対する土壌水分ストレス応答について,より高い空間解像度での高精度計算が可能となった.また,「任意の対象地域に対して横展開や結果の解析・描画を容易に行えるように」との構想で数値モデル・解析システム群を整備し,実現させた. その上で,温暖化・気候変動下での気温や降水量の将来変化について,CMIP5に参加する世界各機関の全球気候モデルGCM出力値を用いて解析し,それを統計的にダウンスケーリング及びバイアス補正して流域スケールでの将来予測気候情報を整理し,さらにその情報を「水循環-農業活動の動的結合モデル」に与えることで,将来気候下での流域水循環と農地水利用,水稲生産量について,「最も確からしい情報」とともに,その誤差範囲等の不確実性に関する情報を解析して算出した(「温暖化科学知の定量的評価」). 一方で,現地調査を通して営農及び農地水管理(灌漑,栽培品種,作付時期等)上の課題・工夫点についてヒアリングするとともに,水文気象観測を実施し,水文環境と営農管理の関係性およびその経年変化,地域固有性について解析した(「農家経験知の定量的評価」).その過程では,現地データが不十分な地域での解析に資するよう,降水や土壌水分量,農事暦に関する人工衛星観測データを効果的に利用する方法を開発・検証し,現地収集データと併せて解析に供した. 最終年度には,これらの解析結果を再整理・検証して国内外の学術誌に投稿し,成果の公表を進めたほか,海外の水資源・農業に係る現業機関および大学研究者らと意見交換を行い,今後の改良点を明確にした.また,本課題で得られた技術・知見を国内農業の課題解決のためにも展開すべく,国内の企業等とも意見交換を行った.
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