研究課題/領域番号 |
16K06512
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
田村 隆雄 徳島大学, 大学院理工学研究部, 准教授 (40280466)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 森林 / 林業 / 洪水低減機能 / 水文観測 / 流出解析 |
研究実績の概要 |
平成28年度は森林施業方法の異なる複数の林地を対象にした水文観測と,観測データに適用する分布型流出モデルの構築を行った. 水文観測の実績について述べると,第一に独自の自伐林業を実施し,良好な森林環境が維持されている橋本林業林地(徳島県那賀町臼ケ谷,一級河川・那賀川流域)に,林外雨量計,水位計,樹冠通過雨採取装置を設置し,水文観測を開始した.橋本林業では,スギ・ヒノキ林内に広葉樹を混在させて良好な森林環境を維持するという特殊な施業形態となっている.これが林地の水循環過程,雨水流出機構に与える影響を評価するため,樹冠通過雨採取装置をスギ・ヒノキが集中する区域に2基,広葉樹が混在している区域に1期設置した.年度内に数回の降雨イベントを観測することができた.次に比較対象流域である「六丁の森」(徳島県那賀町丈ケ谷)は,申請者が従来から水文観測を行っている皆伐斜面を含む一般的なスギ・ヒノキ林であるが,ここでも同様の雨量,水位の観測を行って解析用データの蓄積を行った. 次に那賀川流域の雨水流出シミュレーションに用いるモデルとして,雨量・水位データと水位・流量曲線内蔵型流出モデルを基礎にした分布型流出モデルを構築した.そして那賀川上流域の解析に使用できるよう,平成26年,27年に発生した2つの大規模出水イベントにおける川口ダム~和食間(流域面積86平方キロメートル)を対象として,観測水位ハイエトグラフの再現を通じたモデルパラメータの同定作業を行った.その結果,ピーク水位やハイドログラフ全体を良好に再現できるモデルパラメータを得ることができ,現状の森林流域の雨水流出特性を表現できる流出モデルを得ることができた. 当該年度の内容は観測および解析準備であったので論文,研究発表はないが,次年度以降の解析終了後に土木学会,水文・水資源学会等で成果を発表する予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定の通り,森林施業の異なる複数の小流域を対象とした水文観測の実施と解析に使用する那賀川流域を対象とした分布型流出モデルの構築を行うことができたことから,ほぼ順調に進展していると判断している.ただし観測期間中に大規模な大雨・出水が発生しなかったこととから引き続き密な水文観測を実施する必要がある.また和食~古庄間(那賀川下流の基準点)の流出モデルも未完成であるが,平成29年度半ばでの完成の目途がついているので,今後の研究に大きな支障とはならないと判断している.
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今後の研究の推進方策 |
おおむね順調に進展していることから,研究計画書に書いた通りの手順で実施する.ただし本年度の水文観測の経験から,観測機器に付着するゴミ(枯葉,枯枝,花粉,鳥糞)の量が予想より多く,データに与える影響を無視できないと考えられるので,昨年度よりも頻繁に機器メンテナンスを実施する. 森林生態系を専門とする研究者,橋本林業経営者と情報交換を密にして,今後の解析に役立てる. 森林環境や森林整備の変遷が雨水流出機構に与える影響について考察するため,過去30年程度を対象にした流出解析を実施し,最終年度に計画している地元林業の再生による森林流域の洪水低減機能の向上について解析できるように準備を進める.
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度に橋本林業林地内に設置を予定していた樹冠通過雨採取装置の設置場所の選定,設計,および設置許可の取得に手間取り,装置の設置完了・確認が3月にずれ込み,この件に関する支払い(装置製作・設置費,および旅費)が平成28年度内に完了せず,次年度使用額が発生した.
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次年度使用額の使用計画 |
理由で述べた通り,樹冠通過雨採取装置の設置は28年度内に完了した.この件に関する支払いは平成29年4月中に完了する予定である.
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