研究課題/領域番号 |
16K06512
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
田村 隆雄 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(理工学域), 准教授 (40280466)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 森林 / 林業 / 洪水低減機能 / 水文観測 / 流出解析 / 遮断蒸発 |
研究実績の概要 |
研究2年目は,橋本林業林地内にある小流域で得られた水文観測データをもとに,降雨遮断タンクモデルと地表面流分離直列2段タンクモデルを組み合わせた流出解析を行って,自伐型林業が営まれている林地における降雨遮断過程と雨水流出過程について数量評価を行った. 平成29年8月6日~8月8日に発生した総降雨量334.2mmの降雨イベント(最大時間雨量24.0mm/hr)を対象に流出解析を行った.その結果,降雨イベント中の降雨遮断量は常時30%程度あり,林外雨量から遮断量を差し引いた地表到達雨量の流出率は80%程度と見積もられた.つまり橋本林地が有する洪水低減機能の大部分は林冠の降雨遮断作用が担っていると推測された. 降雨遮断量について,過去に調査研究を行った一般的なスギ人工林(徳島県三好市山城町白川谷)では約20%と推測されていたので,それと比べると1.5倍程度大きい.これは林地の構造特性に拠るものと推察された.具体的には,橋本林地はスギ林の中にモミ,ケヤキ,シイ,カシ等の広葉樹が混じる混交林であること,また林床付近にも低木が繁茂しているような複層構造となっていることにより,遮断蒸発が多段的に発生しているものと考えられる.スギのみの林分とスギに広葉樹が混じる林分の2カ所に樹冠通過雨採取装置を設置し,樹冠通過雨の直接観測を行ったが,混交林の方が5%程度遮断量が多かったので,この推論は妥当だと考える. 土壌の流出抑制作用についても比較したが,適用した降雨イベントでは,洪水ピーク時間の遅れに関わる地表面粗度のモデルパラメータ等には顕著な違いが現れなかった.降水量や最大降雨強度が異なる降雨イベントに適用して検討を加える必要があると考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
心配された天候不順や機器不調による水文観測データの欠測もなく,全体的にほぼ予定通りに研究は進んでいる.中でもスギ林分と広葉樹が混じる林分に設置した3基の樹冠通過雨採取装置による樹冠通過雨量直接観測は,当初想定していた以上の知見をもたらし,遮断蒸発モデルや地表面流分離直列2段タンクモデルで同定されたパラメータの検証に役立った. 過去に調査研究を行った林地との比較によって,自伐型林業による森林の洪水低減機能の向上について数量的な知見が揃いつつある点は評価できると考える.
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今後の研究の推進方策 |
最終年度の課題は大きく2つある.1つは橋本林地の雨水流出機構の詳細について調査を行う事.もう一つは得られた知見を用いて,流域全体に自伐型林業を適用した場合,流域の洪水低減機能がどのように変化するかについて数値シミュレーションを行い,今後の流域治水の進め方について具体的な知見を得ることである. 林地での調査については,地表面直上に地表到達雨採取装置を設置し,現状では観測できない低木群による降雨遮断量を観測し,複層林構造が有する洪水低減機能について詳細に考察する.シミュレーションについては,那賀川流域において,橋本林地のような自伐型林業を適用可能な場所を抽出し,流出モデルを適用して,森林整備による洪水低減量を推量する. 以上の2つの作業を推進して,本課題である「地域林業再生を視野に入れた森林の洪水低減機能の向上と限界の定量評価」についてまとめる.
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額(6,415円)のうち,6,300円は3月20日の橋本林地現地観測旅費(4月支払い予定)で,残り115円は見積金額に対して支払金額が安価であった事等によって発生した残金で,次年度物品購入時に使用する予定である.
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